自殺願望のあった女性(19)から殺害を頼まれ、首を絞めるなどしたとして、警視庁は6日、東京都葛飾区東水元5丁目、無職須藤昭雄容疑者(46)を嘱託殺人未遂の疑いで逮捕し、発表した。調べに容疑を認め、「自分も死ぬつもりだった」などと供述しているという。 捜査1課によると、逮捕容疑は1月31日~2月1日、同区の自宅で、都内の女性に睡眠薬を飲ませたうえで、練炭をたき、首を絞めて殺害しようとしたというもの。女性が目を覚まして抵抗し、翌2日に交番に助けを求めたという。 女性はこの直前、ツイッターに「自殺したい」などと投稿。返信してきた須藤容疑者に「殺してほしい」などと伝えていたという。 警視庁は2月、女性を殺害する目的で自宅に連れ込んだとして、須藤容疑者を加害目的誘拐容疑で逮捕していた。 悩みを抱えた時の相談先 ○自殺予防いのちの電話 フリーダイヤル0120・783・556(毎日午後4~9時、毎月10日は午前8時~翌午前8時) ナビダイヤル0570・783・556(午前10時~午後10時) ○東京いのちの電話 03・3264・4343(日・月・火は午前8時~午後10時、水・木・金・土は午前8時~翌午前8時) ○よりそいホットライン フリーダイヤル0120・279・338(24時間、岩手、宮城、福島の3県からかける場合は、0120・279・226) ○生きづらびっと LINEアカウントで友達登録(日、月、火、木、金曜は午後5~10時半、水曜は午前11時~午後4時半) ○こころのほっとチャット LINE、ツイッター、フェイスブック@kokorohotchat(毎日正午~午後4時※受け付けは午後3時まで、午後5~9時※受け付けは午後8時まで) ○チャイルドライン 対象は18歳以下。フリーダイヤル0120・99・7777(毎日午後4~9時) チャットはhttp://childline.or.jp/から(木、金曜と第3土曜の午後4~9時) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
女性デーが許せない スウェーデン大使から見たニッポン
男女平等の先進国であるスウェーデンの駐日大使、ペールエリック・ヘーグベリさんは3月8日の国際女性デーが「嫌い」だと言います。女性が不平等な状態に置かれているにもかかわらず、この日だけ祝うことへの異議申し立てです。では、どうすれば――。実りある日にするための提案を語ってくれました。 ◇ 2008年からスウェーデン外務省に勤め、16年から駐ベトナム大使。19年9月から駐日大使を務める。 国際女性デーは嫌いです。1年は365日。1日だけでなく毎日が女性の日、男女平等の日であるべきだと思っているからです。 女性デーを祝いましょうとか「Happy Women’s Day」という言い方も好きではありません。何がハッピーなのでしょう? 女性の賃金は男性より低く、企業の取締役会など意思決定へのアクセスも少なく、政治参加の機会も少ない。逆に家事分担ではいろんなことが女性に押しつけられ、朝早く食事をつくって出さないといけなかったり、夜遅くに帰ってきた夫に食事を出してあげたり。そんな不平等な状態なのにどうして祝うんでしょう。 今年の女性デーは日本にとって特に、ジェンダー平等を考える重要な機会となるでしょう。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言があったばかりだからです。 男女平等の度合いを示すランキングで4位(日本は121位)のスウェーデンは男女平等で最も進んだ国の一つと言われています。しかしそのスウェーデンでも、「まだまだ足りない」といって議論を続けています。男女平等は民主主義と同じ。毎日みんなで話し合いをして監視をして、毎日あたためていかないといけないものです。 女性デーは、男女平等について意識を深める日にしてもらいたい。なぜ自分はこう言っているんだろう、なぜこんな振る舞いをしているんだろうということを。たとえば森さんなら、どういう衝動に駆られてあの発言をしたのかその根底にあるものを反省してみてほしい。女性デーを、男女がともに意識を深め、社会的な構造にメスをいれるような、そういう日にしたいですね。 ◇ 2008年からスウェーデン外務省に勤め、16年から駐ベトナム大使。19年9月から駐日大使を務める。(聞き手・岡林佐和) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
新たな命に亡き夫の面影 生きる、色あせぬ思い出と共に
岩手県陸前高田市の菅野(かんの)佳代子さん(60)が夫の誠さんと出会ったのは、中学生のときだった。 13歳の誕生日、キラキラ光るガラス玉にチェーンがついたネックレスをもらった。学校では口をきかず、家で親の目を盗んで長電話をした。高校を卒業して初めてのデートは映画。よくドライブにも行った。 特集「海からみた被災地」 東日本大震災による津波は、陸地だけでなく海の中にも大きな被害をもたらした。大量のがれき、失われた漁場……。豊かな海はこの10年でどう変わったのか。水深35メートルまで潜ってみた。 23歳で結婚し、3人の子に恵まれた。誠さんは市役所で働き、佳代子さんは福祉の仕事をした。 2011年3月3日。「お母さん、ケーキ買ってきたから食べるべし(食べよう)」。夜中に2人で食べた。 3月10日。「お母さん、韓流ドラマ見るべし」。疲れていたから断った。 夫はよくしゃべる人。仲のよさが自慢だった。 《東日本大震災による陸前高田市の死者・行方不明者は1761人。津波による家屋の被害は市内の半数にあたる4065世帯にのぼった》 3月16日。市内の体育館で黒い袋に包まれ、横たわる夫と対面した。避難誘導中に津波に巻き込まれたと聞かされた。50歳だった。 「なんでここにいるの」。夫のほおをたたく。あごに小さい傷があるだけで、まるで寝ているように見える。「なんで置いていくの」。泣き続けた。 夫が身につけていた指輪を外し… 2種類の会員記事が月300本まで読めるお得なシンプルコースはこちら Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
49歳で帰国、職転々 中国残留日本人2世に支援を
中国残留日本人孤児や残留婦人の子どもとして現地で生まれた「2世」と呼ばれる人たちが、日本政府に支援を求める活動を続けている。これまで支援の対象は1世に限られており、2世は正確な人数も把握されていない。高齢になる人も多く、福岡市では2日、当事者らがネットで支援を募るクラウドファンディングを始めると発表した。 拡大する福岡県庁で支援を訴えて会見する小島北天さん(右から2人目)=2021年3月2日午後4時14分、福岡市博多区、宮野拓也撮影 2日に福岡県庁であった記者会見で、県内で暮らす小島北天さん(73)が「多くの2世が生活が苦しく、活動の交通費が出せなかった。みんなで支援してほしい」と訴えた。クラウドファンディングで集まった寄付は、年金の特例や給付金などを求めて国会議員に請願活動をする際の交通費などに使う。 クラウドファンディングは8日から4月28日まで。サイト(https://readyfor.jp/projects/ncf)で受け付ける。 中国では「日本人」、日本では「中国人」 小島さんは1997年、その1年前に帰国した残留婦人の母と暮らすため49歳で日本にやってきた。 来日後に日本語を勉強し、就職したが、しばらくはあいさつ程度しか理解できなかった。電気製品の組み立てや清掃、レストランのアルバイトなどを転々とし、意思疎通がうまくできずに職場で嫌がらせを受けたこともあった。日本で働いた期間が短いため、受け取れる年金は月1万9千円。生活のため、いまはシーツのクリーニングなどをするパートに週3回出かける。 旧満州で看護師をしていた母と中国人医師の父との間に生まれた。「中国にいるときは日本人と言われ、日本では中国人と言われる。これは本当にきついよ」。支援対象の1世にはわずかしか年齢が変わらない人もいるが、小島さんは支援を受けられない。 拡大する中国在留日本人2世の小島北天さん=2020年11月10日午後3時7分、福岡市中央区、宮野拓也撮影 いま九州地区中国帰国者2世連絡会の会長を務める。会員は約300人。2017年の調査では平均年齢は60歳を超えていたという。「新しい環境になじめずに心身を壊した人も多い。こういった2世が日本にいることをみなさんに知ってほしい」 2世の活動を支援する残留孤児… 2種類の会員記事が月300本まで読めるお得なシンプルコースはこちら Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
死に際にジタバタしてもええよ がん患う医師の人生観
それぞれの最終楽章・足し算命(8) 海南病院緩和ケア医 大橋洋平さん 2月19日の診察で、白血球の数が大きく減少していることが分かりました。毎日飲み続けている抗がん剤スーテントの副作用です。本来であればさらに1週間、服用を続ける予定でしたがいったん中止し、最低2週間休薬して服用を再開するか決めることになりました。足し算命684日のことでした。 がん患者にとって治療は文字通り命綱です。治療できなければ、すぐに死なないとしても生きられる時間が少なくなるのは間違いないでしょう。がんになると、治療=生、治療しない=死と捉える人が圧倒的に多い。そこから「検査の数値を見れば薬が効かなくなっているのは分かるが、治療を中止するのはイヤ。だって治療を止めたら死んじゃうじゃないか」と絶叫する患者も出てきます。 薬の副作用は苦しいし、命を縮めてしまう恐れもあります。私の場合は白血球がそれに当たります。白血球が減ると感染症にかかりやすくなり、かかった場合は治りにくくなります。がんは命を落とすほど悪化していないのに、感染症で命を落とす患者さんも診てきました。今ならコロナも大敵で、要注意です。だから今回の治療中断には私も納得しています。 ではこの先、完全に治療が不可… 2種類の会員記事が月300本まで読めるお得なシンプルコースはこちら Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
シカを狩り、さばく料理研究家 命を無駄にしないレシピ
昨年11月の夕暮れ、大阪府高槻市の山あい。急斜面に枚方市の平岡祐子さん(35)が立っていた。かたわらには高槻市の猟師の大矢隆行さん(57)。2人が仕掛けたわなには、体重50キロほどありそうな若い雄のシカがかかっていた。 平岡さんは、身長より長い電気やりを持ってシカににじり寄った。「射程に入ったらあかんで!」と大矢さんの声が飛んだ。 シカはわなに脚を取られていても、人間が近づくと激しく威嚇する。油断すれば蹴られて大けがをすることもある。 左胸をやりで突いた。大電流が流れてもシカは倒れない。平岡さんが2度、3度と突くと、シカはとうとう動きを止めた。平岡さんは肩で息をしながら、「一発で気絶させることができず、苦しませてしまった」と反省を口にした。 大矢さんの家の前でシカをさばいた。内臓に斑点が見つかった。「これはあかんわ」と大矢さん。何らかの病気の疑いがあり、結局、このシカを食用にするのはあきらめた。解体するまでわからないのが、野生動物の難しさだ。 レシピは70以上に 平岡さんは自ら「シカ肉料理研究家」と名乗る。枚方市ではシカ肉料理教室を主宰している。ビビンバ、ちらしずし、薬膳スープ。これまで考えたレシピは70を超す。 一般社団法人日本ジビエ振興協会(本部・長野県)が主催するジビエ料理コンテストでは2019年、中華料理の棒棒鶏(バンバンジー)をシカ肉で作った「棒棒鹿(バンバンロク)」で最高位の農林水産大臣賞を受賞した。 金融機関で働いていた約10年前、体調を壊した。食生活を見直すうち、シカ肉に興味を持った。野生のシカの肉は鉄分が豊富で、脂質が少ない。 平岡さんの祖父は猟師だ。16年から、兵庫県で活動する祖父の仲間のグループに加わり、「巻き狩り」と呼ばれるシカ猟を始めた。 捕れた肉でいろんな料理を試すうち、味にますます魅了されていった。19年には料理教室を始めた。 ただ、シカ肉はほとんど市販されていない。自らが捕り、さばいたシカ肉を教室の生徒のほか、一般の人にも販売するため、保健所で食肉処理業・販売業の許可を取って施設を開くことにした。 必要経費400万円のうち122万円はクラウドファンディングで集めた。自宅の一角で今月中のオープンをめざしている。 販売量を確保するため、比較的安定してシカが捕獲できるわな猟を学ぶことにし、ベテランの大矢さんに弟子入りした。猟期は11月~3月で、その間は毎週2頭の捕獲を目標にする。猟期以外は、大矢さんら猟師たちから、「有害鳥獣」として捕獲したシカを回してもらうつもりだ。 捕獲量、10年でほぼ倍増 近年、全国各地で野生動物が農作物を食い荒らす被害が増えている。シカの被害は特に多い。 環境省によると、2019年度は全国で60万頭を超すシカが捕獲された。10年前のほぼ2倍だ。 イノシシなども含め、捕った動物をジビエとして活用するための食肉加工施設も全国で増えた。ただ、野生動物は安定した量と質を確保するのは難しい。解体にも手間がかかる。日本ジビエ振興協会によると、多くの施設が経営的に赤字だという。 それでも、平岡さんは自ら施設を開くと決めた。その理由は「おいしさ」だ。より多くの人に伝えたいとの思いは強い。 一般にシカ肉は「臭い」「硬い」といったイメージがある。猟師の大矢さんでさえ、「脂(あぶら)がうまいイノシシがわなにかかっているとうれしいけど、シカだと正直がっかりする」と言う。 環境省によると、捕獲されたシカの半分以上は山に埋められたり、焼却されたりしているのが現状だ。 だが平岡さんは「適切に処理し、調理を工夫すればおいしく食べられる」と断言する。新レシピを考えるたび、夫と3歳の長男に食べてもらうが、2人ともシカ肉が大好物になった。 自分が考えた「おいしい食べ方」を普及させることで、人がやむなく捕った「命」の肉が廃棄されることを少しでも減らしたい。これからさらにレシピを増やし、猟の腕も磨こうと、心に決めている。(堀之内健史) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
被災ペット、行き場なく10年 飼い主「引き取り無理」
東日本大震災で飼われなくなった犬や猫の世話を続けた動物保護施設が、新潟市西蒲区にある。被災動物は一時、施設内に200匹以上に上ったという。多くは引き取られていったが、死んだものも少なくない。そして今も、約10匹が引き取り手を待っている。 住宅街から離れた角田山のふもとに、動物保護施設「あにまるガード」はある。薪ストーブの匂いが漂う平屋造り。22ある個室の中で犬や猫がくつろいでいた。 飼い主に捨てられるなどしたペットを一時保護し、引き取り手を探す施設だ。震災直後、当時の運営団体の代表が、福島県内に取り残されたり、避難先で飼えなくなったりした多くの犬や猫を引き取った。 「目の奥でおびえていた」と、震災の翌月からこの施設で働く桑原武志さん(33)は言う。震災の恐怖からか、当時は個室を嫌ったり、職員が身体を触るとかみついたりする動物が多かった。1日2回の散歩など、当時はスタッフ12人で世話を続け、だんだん落ち着きを取り戻していった。 当時の代表が引き取り現場に施設の情報を書き置きしたり、被災動物に関する情報冊子に投稿したりして飼い主を探したという。そのかいあって、震災から1、2カ月で飼い主の元に戻る動物も多くいた。施設の運営態勢は変わったが、桑原さんらスタッフは「全頭譲渡」を目標にホームページで情報発信するなどしてきた。えさは寄付などで賄った。 これまでに、元の飼い主や新た… 2種類の会員記事が月300本まで読めるお得なシンプルコースはこちら Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
コロナワクチン「安く打てる」は詐欺 不審電話にご用心
「新型コロナウイルスのワクチンを安く打てます」と勧める不審電話が今月、大阪府内で確認された。接種の準備を進める政府はコロナのワクチン接種を無料と決めている。同様のケースは各地で相次いでおり、府警は「特殊詐欺につながる疑いがある」として注意を呼びかけている。 府警捜査2課によると、今月2日午前、府内の80代女性宅に市役所職員を名乗る女の声で電話があった。相手は女性の名前と住所を把握しており、「4千円のコロナワクチンが400円で打てます」としたうえで、女性の年齢を聞いた。「明日午後うかがいます」と話して切れたという。 女性は相談した知人のすすめで府警に通報した。翌日、電話に関連して訪問してきた人はいなかった。 府警は、払う必要がない金を詐取する犯罪につながることを警戒する。ワクチンに関する不審電話があれば、すぐ警察に通報してほしいと呼びかけている。 府ワクチン接種推進課によると、ワクチン接種は市町村が実施し、国が予防接種法に基づいて費用を全額負担するため、個人負担は一切ない。自治体が個人情報を把握する電話をかけることもありえないという。 ワクチンをめぐっては、東京や… 2種類の会員記事が月300本まで読めるお得なシンプルコースはこちら Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
水戸、納豆の消費額5位に転落 弱点は食べ方にあった?
水戸納豆で有名な水戸市が、全国の県庁所在地の納豆購入額で一気に5位に転落した。2月に発表された総務省の家計調査で、軒並み上位を占めたのは東北の都市。「納豆といえば水戸」だったはずだが、何が起きているのか。 2020年の家計調査をもとに水戸市が県庁所在地別に分析したところ、1位は2年連続で福島市(7251円)。2~4位は山形市、盛岡市、仙台市だった。水戸市は6061円で5位。2位だった前年の6647円から大きく後退した。額は1世帯(2人以上)あたりの購入額を表している。 実は「異変」は今に始まったことではない。 過去10年間で水戸市が首位だったのは13年と16年の2回だけ。最も多く首位を獲得したのは福島市の5回で、東北勢が上位を占める傾向にある。 なぜ東北が優勢なのか。 東北勢に押され気味の水戸。どうやら食習慣に一因があるようです。そしてコロナ禍ゆえの特殊な事情も。記事の後半で深掘りします。 水戸商工会議所が昨年1月、水… 2種類の会員記事が月300本まで読めるお得なシンプルコースはこちら Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
姓違っても「絆薄まらず」 ペーパー離婚した夫婦の訴え
8日の「国際女性デー」を前に、民法の夫婦同姓の規定が違憲と訴えた「夫婦別姓訴訟」に原告として参加した奈良県香芝市出身の大学准教授(家政学)の吉井美奈子さん(44)、吉井さんの夫で県内の公務員の谷正友(まさとも)さん(同)に聞いた。どんな思いで夫婦別姓を求めたのですか。 吉井さんの父は化学研究者で、広島県出身。戦時中に大阪に移り、戦争や結核で家族を失った。奈良で暮らすようになって、子どもは吉井さんを含む女性3人。幼い頃から「女の子しかいないから、『吉井』が途絶えてしまうのは残念だ」と言われていた。 「お父さんっ子だった」吉井さん。幼いころ、広島にある一族の墓に家族でお参りした記憶がある。吉井家の歴史を受け継いでいきたいと思っていた。 吉井さんは2002年、中学校の同級生だった谷さんと結婚した。吉井さんは当時は大学院生。名字が変わると、それまでに自分が書いた論文が認知されなくなることを恐れた。同時に「途絶えさせたくない」と父の姓も守りたかった。 吉井さんと谷さんは当初、事実婚も考えたが、親類の反対や税制上の不利益も考え、法律婚を選んだ。長男、次男が生まれ、いずれも谷姓となった。吉井さんも戸籍上は谷姓となったが、吉井の旧姓のまま、生活し、仕事をした。 11年、吉井さんは民法の夫婦同姓の規定が違憲と訴えた「夫婦別姓訴訟」(15年に最高裁大法廷が合憲と判断)に加わった。原告の一人と知り合いで、誘われたことがきっかけだったが、「今変えないと変わらない」との思いがあった。1996年に法相の諮問機関の法制審議会が夫婦別姓を選べる民法改正案を答申してから10年以上が過ぎていた。 提訴後、2011年11月に長女が生まれた。長女は通称として吉井姓で育てることにした。「きょうだいで名字が違ったら、かわいそう」という周囲の声もあったが、「やってみないとわからない」と思った。 吉井さんは「仲が良いときは良いし、けんかをする時はする。他の家族と変わらない」。谷さんも「名字が違うからといって、それで絆が薄まることなんて本当にない。他の家族との違いを探す方が難しい」と話す。 18年、吉井姓が長女のアイデンティティーになっているとして、通称の吉井姓をパスポートに併記するよう旅券事務所に訴えたが、かなわなかった。やむを得ず、長女の戸籍姓を吉井にするためペーパー離婚し、事実婚に切り替えた。 9歳になる吉井さんの長女は「結婚したら相手と相談して名字を決めたい」と話している。現状は妻の姓を選択する夫妻はわずか4%。長女が自由に選択できるためにも、選択的夫婦別姓が認められるようになってほしい。吉井さんと谷さんはそう願っている。(根本晃) ◇ 夫婦同姓が法律で定められているのは日本のみとされる。国連の女子差別撤廃委員会は法改正するよう勧告している。 内閣府の2017年度の世論調査によると「家族の名字が違うと、家族の一体感(きずな)が弱まると思う」と答えた人の割合は31・5%、「影響がないと思う」は64・3%だった。一方、別姓夫婦に2人以上の子どもがいる場合に「子ども同士の名字が異なってもかまわない」と答えた人の割合は14・9%、「同じにするべきである」と答えた人は58・3%、「どちらともいえない」は25・2%だった。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル