関西電力の元役員らが福井県高浜町の元助役(故人)から金品を受け取っていた問題で、大阪地検特捜部は関電の元役員ら9人全員を不起訴処分にした。元役員らを会社法の特別背任などの疑いで刑事告発した市民団体「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人の河合弘之弁護士は9日、オンラインで記者会見を開き、「まことに遺憾。巨悪を眠らせないという公益の守護者としての検察の権威を著しく失墜させた。戦後最大の公的経済犯罪を見逃すことはありえない」と、大阪地検の判断を批判した。 河合弁護士は金品受領や報酬補塡(ほてん)などの告発内容について、「(地検が家宅捜索などの)強制捜査で証拠資料を入手すれば起訴につながったはずだ」「国税も問題にしており、違法性は明らかだ」などと述べた。 今後は速やかに検察審査会に審査を申し立てる方針。河合弁護士は「検察審査会で市民の感覚で裁いてもらい、不起訴決定を覆し、強制起訴にこぎつけたい。地検の手ぬるい捜査で見逃されていたものを引きずり出し、歴史の判断にゆだねたい」と話した。 関電の筆頭株主である大阪市… この記事は会員記事です。残り402文字無料会員になると月5本までお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「子ども殺す目的」供述 刃物持ち保育施設に侵入容疑で逮捕 宮城
三井新2021年11月9日 20時20分 認定こども園に無断で立ち入ったとして、宮城県警は9日、同県登米市豊里町迫の無職、大槻渉容疑者(31)を建造物侵入容疑で現行犯逮捕し、発表した。大槻容疑者は包丁を所持しており、「子どもを殺す目的で侵入した」と供述しているという。園児や職員にけがはなかった。 捜査1課などによると、大槻容疑者は9日午前10時40分ごろ、同市豊里町小口前の認定こども園「豊里こども園」の敷地に侵入した疑いがある。 当時、園児計約200人と職員約40人が園にいた。職員が敷地の周囲をうろつく大槻容疑者を不審に思い、園庭で遊んでいた園児約70人を建物に避難するよう誘導。その後職員が大槻容疑者に声をかけたところ、無言で高さ約1メートルの柵を乗り越えてきたという。その際、刃渡り約12センチの包丁で切りかかろうとしたため、複数の職員で取り押さえた。(三井新) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「主文後回し」を予告、判決まで30分間 患者連続死、被告の様子は
会員記事 大宮慎次朗 黒田陸離2021年11月9日 20時29分 患者3人の命を絶ち、死刑を求刑された元看護師に言い渡されたのは、無期懲役判決だった。横浜市の旧大口病院で2016年に起きた連続中毒死事件。裁判員らは苦悩の末、結論にたどり着いたと明かした。被害者遺族は「納得がいかない」と、検察に控訴するよう求めた。 「無期懲役に処する」 横浜地裁の家令(かれい)和典裁判長が主文を読み上げる際、証言台に座っていた久保木愛弓(あゆみ)被告(34)は、ずっと前を見続けた。家令裁判長が「わかりましたか?」と問うと、小さく「はい」と答えた。 10月22日に裁判が結審した際、家令裁判長は厳粛な法廷で判決を宣告したいとの理由で、結論に関わらず主文を後回しにするとしていた。そして、判決当日、「裁判員のみなさんと真剣に議論した結論」と前置きした上で約30分かけて判決を言い渡した後、こう説いた。 「あなたが本日までに至った… この記事は会員記事です。残り1290文字無料会員になると月5本までお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
会見は9分40秒 「雲隠れ」4カ月の木下都議、事故詳細は語らず
会員記事 関口佳代子、釆沢嘉高2021年11月9日 20時30分 7月の都議選期間中に無免許運転で事故を起こした疑いで書類送検された木下富美子都議(55)が9日、4カ月ぶりに公の場に姿を見せ記者会見を開いた。ただ、説明と質疑の時間は、わずか9分40秒。議員を続ける考えを示した一方、自身が起こした人身事故については口を閉ざした。 「二度と繰り返すことのないよう車の運転はいたしません。本当に本当に申し訳ございませんでした」 正午過ぎに議会棟の通路で記者団の取材に応じた木下都議は冒頭、そう言って深々と頭を下げた。 木下都議は、大きく息をしながら、伏し目がちに自身の「心身の不調」の内容や、それが議会の欠席理由だったことを説明。すでに振り込まれた3カ月分の議員報酬計約192万円をNPO法人などに寄付したことや、政務活動費計150万円は請求しない考えを明らかにした。 後半は木下都議と記者の一問一答を掲載しています。 今回の人身事故については… この記事は会員記事です。残り582文字無料会員になると月5本までお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
自殺自衛官の情報、開示命令の一部取り消す 札幌高裁判決
自衛隊員の自殺者に関する文書の開示請求に対し、防衛省がほぼ黒塗りで開示したのは情報公開法に反するとして、札幌市の弁護士が自殺者の氏名をのぞく部分の開示を求めた訴訟の控訴審判決が9日、札幌高裁であった。大竹優子裁判長は、一審・札幌地裁が公開を命じた情報のうち一部について個人を識別できるとして、命令を取り消した。 原告側は「自衛隊という実力組織の監視を妨げるもので、不合理な判決だ」と批判し、上告を検討するとしている。 原告は佐藤博文弁護士。南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への陸上自衛隊派遣は憲法違反だとして、千歳市の陸自隊員の母親が訴えた訴訟で代理人を務めている。 裁判では、公開される情報によって自殺した隊員が特定されるかが焦点となった。今年1月の一審判決は、陸自北部方面隊で自殺した隊員の海外派遣歴や入隊後の年数、配偶者の有無など20余りの項目の開示を命じた。 一方、高裁判決は一審判決が開示を命じた学歴▽出身地▽家族構成▽海外派遣歴▽死亡推定時刻▽自殺の方法などについて「親族や同僚の持つ情報と照合すれば個人を識別できる」と判断し、命令を取り消した。 大竹裁判長は項目ごとに判断理由を説明。学歴情報については「高校を中退した人が少ないから、出身や家族構成など他の情報と照らし合わせると個人の特定が可能」と指摘した。出身情報についても「年齢などの情報から個人特定につながる」とした。 一方、既婚か未婚か、入隊後年数などについては「どのように個人特定につながるか具体的に明らかではない」として開示を命じた一審判決を支持した。 原告側は控訴審で、過去の報道例などから開示を求めた情報には「秘匿の必要がない」と主張したが、大竹裁判長は自殺に関する個人情報が「慣行として公にされるものではない」として退けた。 判決後の会見で、原告代理人の池田賢太弁護士は「知る権利に背を向けたというほかない」と判決を批判。自衛隊内で自殺が相次いでいることに触れ、「国家機関を監視する観点から、公人と私人の扱いは分けて考えるべきだ」と訴えた。佐藤弁護士は「判決は国の説明をうのみにした。納得がいかない」と語った。 防衛省は「国の主張が一部認められなかったものと受け止めている。判決内容を慎重に検討し、対応する」との談話を出した。(平岡春人) 開示命令が取り消された情報 ・自殺した曜日、月 ・学歴 ・自殺の手段、方法 ・死亡推定時刻 ・出身地 ・配偶者の有無 ・海外派遣歴 ・家族構成 ・単身赴任をしているか ・遺書(一部) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
名駅のナナちゃん、「化粧直し」でしばしお別れ ミナちゃんが留守番
皆木香渚子2021年11月9日 22時33分 名古屋駅前の巨大マネキン、ナナちゃん人形が「お化粧直し」に出かける――。来月1日に開店67周年を迎える名鉄百貨店の改装開業にあわせて、30日にきれいになった姿で元の場所に戻ってくる。ナナちゃんの一時撤去は同百貨店が2006年に改装工事をして以来、15年ぶり。 ナナちゃん人形は高さ約6メートル。9日夜に、腕や脚など七つのパーツに分けて運び出された。経年劣化で手足の先に汚れや傷がつき、「ずっと気になっていた」と名鉄百貨店の担当者は話す。ナナちゃん人形は、マネキンの素材である繊維強化プラスチック(FRP)の加工会社「東洋ポリテック」(京都府)で清掃・塗装される。 撤去期間中は、ナナちゃんの妹という設定で、6分の1サイズの「ミナちゃん人形」が留守を守る。通行中の男子学生からは「毎日通学で見ていたのでさみしくなります」との声もきかれた。(皆木香渚子) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「あなたのお金にパワーが」偽の札束と交換し1700万円詐取容疑
杉山あかり2021年11月9日 20時43分 「霊がいるのでおはらいした方がいい」などと言い、知人女性から現金1700万円をだまし取ったとして、福岡県警は9日、長崎県平戸市田平町以善免の職業不詳、池田恒雄容疑者(67)=詐欺罪で起訴=を詐欺の疑いで再逮捕し、発表した。容疑を認めているという。 中央署によると、池田容疑者は2018年10月から今年5月ごろ、福岡県久留米市の会社員女性(51)に「霊がいるのでおはらいした方がいい。100万円必要です。あなたのお金にパワーがあります。私のお金と交換しましょう」などと言い、女性から受け取った現金100万の札束を十数回にわたって偽の札束と交換し、現金計1700万円をだまし取った疑いがある。 札束は上の1枚だけ本物で、ほかはネット通販で購入した偽物だったが、女性は気づかなかったという。今年9月に池田容疑者が別の詐欺容疑で逮捕されたことを報道で知り、家に保管していた札束を確認して偽物と分かったという。(杉山あかり) Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
スカウトグループ「社長」ら、職安法違反容疑 月3千万円超の収益か
2021年11月9日 21時00分 性風俗店に女性を紹介したとして、スカウトグループの実質的代表の男らが職業安定法違反(有害業務の紹介)容疑で逮捕された事件で、このグループが「性風俗班」や「キャバクラ班」などの複数の班で役割分担していたことが、愛知県警の調べでわかった。実質的代表は「社長」と呼ばれ、その下の幹部が班を統括し、組織的に活動していたという。 県警は9日、実質的代表で自称探偵業大野武之(33)、グループ幹部の自称コンサルタント業鈴木一成(26)、職業不詳宮田莉邦(りく)(23)の3容疑者を同法違反の疑いで再逮捕し、新たに自称大学生大野賢(まさる)容疑者(23)を逮捕した。4人は容疑を否認または留保しているという。 捜査4課によると、グループは約40人で東海地方最大。名古屋市中心部の錦三(きんさん)や栄地区で女性に声をかけるなどしていた。紹介先はキャバクラやクラブ、デリヘルなど100店舗以上という。鈴木容疑者が売り上げ管理などをし、各班を統括。宮田容疑者は「性風俗班」の「班長」、大野賢容疑者は同班のメンバーとみられる。 スカウトらは、店側から紹介料や、女性の売り上げの約15%を報酬として受け取るなどしていた。「ノルマ」も課されていたという。グループ全体の収益は多い月で3千万円を超えていたといい、県警は、一部が暴力団の資金源になっていたとみて調べる。 再逮捕容疑は、4人は昨年7月17日ごろ、同市北区のファッションヘルスに、当時19歳の女性を働かせる目的で紹介したというもの。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
金品受領問題で告発された関西電力元役員らを不起訴 大阪地検特捜部
関西電力元役員らの金品受領や役員報酬の補塡(ほてん)などの問題で、大阪地検特捜部は9日、会社法の収賄や特別背任などの疑いで市民団体から告発された森詳介元会長ら元役員9人全員を不起訴(嫌疑不十分)とし、発表した。市民団体は処分を不服として、検察審査会に審査を申し立てる方針。 不起訴となったのは、森元会長のほか、八木誠前会長▽岩根茂樹前社長▽豊松秀己元副社長▽八嶋康博元監査役――ら9人。 関電の第三者委員会が昨年3月に出した調査報告書などは、元役員ら83人が、原発がある福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)側から30年以上にわたり、計約3億7千万円相当の金品を受け取ったと指摘した。また、東日本大震災後の電気料金値上げに伴って減額した役員報酬について、役員の退任後に相談役などに委嘱する形で、関電側が計約2億6千万円を補塡していたことも判明した。 特捜部は昨年10月に市民団体の刑事告発を受理。元役員らを任意で聴取するなどして捜査していた。 特捜部は、金品の受領について、会社法の特別背任罪や収賄罪に問えるかどうかを検討。元役員らが事情聴取に対し「預かり保管していた」と説明したことなどを踏まえ、関電が元助役の関連企業に対し、不適切に工事発注したとは認められないと判断した。会社法の収賄罪の成立には森山氏からの「不正の請託」が必要だが、森山氏は既に死去しており、立証は難しかったとみられる。 一方、役員報酬の補塡をめぐっては、国税当局が7月、補塡は退職金を嘱託報酬に仮装した「所得隠し」とみなし、重加算税の対象とした。関電も、旧経営陣を提訴した民事訴訟で、補塡を決めた際に「嘱託先の業務の対価とは考えていなかった」と認めた。 だが、特捜部は「退職後も嘱託として関電のために働いており、正当な報酬だった」とする元役員側の主張を検討し「嘱託としての業務実態がなかったとはいえない」と判断。補塡を決めた役員が任務に反したとはいえず、特別背任罪にはあたらないと結論づけた。 村中孝一特捜部長は「起訴方向、不起訴方向の両面から何度も検討したので時間がかかった」と述べた。 森元会長ら元役員7人の弁護団は「適正・妥当な判断。被告発人の名誉が回復されることを願う」とのコメントを出した。関電は朝日新聞の取材に対し「当社は当事者ではなく、お答えする立場にない」とした。(松浦祥子、浪間新太、加茂謙吾) 関西電力元役員らの金品受領と役員報酬の問題をめぐる主な経緯 1987年 福井県高浜町の元助役から関電幹部(当時)らへの金品提供が始まる 2011年 東京電力福島第一原発事故。その後、すべての原発が運転停止 12年 役員報酬を減額 13、15年 電気料金を値上げ 16年4月 役員報酬の補塡(ほてん)方針を決定 19年9月 金品受領問題が報道で明るみに 20年3月 第三者委の調査報告書で、役員報酬の補塡が明らかに 10月 大阪地検特捜部が、元役員9人に対する刑事告発を受理 21年11月 大阪地検特捜部が、元役員9人を不起訴処分 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
患者3人中毒死事件で無期懲役 横浜地裁判決の要旨
横浜市の旧大口病院で入院患者3人が消毒液により中毒死した事件で、横浜地裁が9日、殺人と殺人予備の罪に問われた元看護師、久保木愛弓被告(34)に言い渡した判決の要旨は次の通り。 罪となるべき事実 被告は大口病院で2016年9月15~19日、点滴袋に消毒液を混入し患者3人を殺害した。また同月18~19日、他の患者に投与される予定の点滴袋などに消毒液を混入し、殺人の予備をした。 争点に対する判断 争点は犯行当時の被告の責任能力の程度である。 検察官は起訴前の精神鑑定に依拠し、被告は軽度の自閉スペクトラム症で、うつ状態だったが、犯行に精神障害が及ぼした影響は極めて小さく、完全責任能力があったと主張する。 弁護人は起訴後の鑑定に依拠し、被告は統合失調症に罹患(りかん)しており、目的に不釣り合いな殺害という手段を選択した点に症状が強く影響したとして、心神耗弱だったと主張する。 検討すると、被告は、複数のことが同時に処理できない、対人関係の対応力に難がある、問題解決の視野が狭く自己中心的といった、自閉スペクトラム症の特性を有し、うつ状態だったことが認められる。一方、症状からは、統合失調症を発症していたとは認めがたい。 被告は、患者が急変して死亡し、家族から看護師が激しく責められる場面を見て強い恐怖を感じた。勤務時間中に自身が対応を迫られる事態を起こしたくないと考えて犯行に及んだ。こうした動機は十分に了解可能だ。自分が対応しなくてよい時間に被害者を死亡させる目的に沿って手段を選択し、違法性を認識して犯行に及んでいる。自閉スペクトラム症の特性がありうつ状態だったとしても、弁識能力と行動制御能力は著しく減退してはおらず、完全責任能力が認められる。 犯行に至る経緯 被告は幼少期から内向的な性格。評価されることが少なく、対人関係の不得手さを意識し、自己肯定感を得る機会に乏しかった。 高校2年の時に母親に勧められ、看護師になろうと考えた。看護専門学校の学科の成績は中位だったが実習の成績が低く、自身が看護師に向いていないと感じた。だが学費を両親に出してもらったことや奨学金を受け取っていたことから、看護師として働くほかないと考えた。 2008年4月に病院のリハビリ病棟で勤務を開始。障害者病棟や老人保健施設でも勤務した。 14年1月から勤務した老人保健施設で、患者の家族から手際の悪さを責められたり、亡くなった患者の家族から同僚の看護師らが大声で責められるのを見たりした。強いショックを受け、不眠や不安、気分の落ち込みを感じるようになり、14年4月に精神科クリニックを受診。同年7月ごろまで休職した。 同年8月、内科診療所で復職したが、臨機応変に対応できず患者の急変を招くのではないかと不安を感じ、自信をなくして15年4月に退職。臨機応変な対応が要求されない職場なら働けると考え、終末期医療を中心とし、患者や家族から、急変時に無理な延命措置を行わない同意がとれているとされていた大口病院の面接を受けた。 大口病院で勤務を開始したが、終末期の患者が亡くなっていくことを割り切れず辛く感じた。夜勤が増えて負担を感じ、同僚となじめず、仕事ができない自分に引け目を感じ、ストレスをため込むようになった。 16年4月には、患者が急変した際に被告が救命措置をしたが亡くなり、被告を含む複数の看護師が、患者の家族から怒鳴られることがあり、被告は強い恐怖を感じた。夜勤明けに無気力になったり気分が落ち込んだりし、辞めたいと思い詰めるようになった。 そのような状況のなか、同年4月の出来事がきっかけで、自分が勤務でないときに患者が死ねば、家族から責められるリスクは減るという発想が浮かぶようになった。ニュースで消毒液を誤って投与された患者が死亡した事故が報じられたことを思い出し、同年夏ごろ、夜勤時に、未使用の点滴に消毒液を混入させた。被告はその後、この点滴を投与された患者が死亡したことを知った。 量刑の理由 被害者は終末期病棟で穏やかな最期を迎えるはずだったのに不条理にも突然生命を断たれた。結果は極めて重大だ。看護師としての知見と立場を利用し、消毒液を混入した点滴を同僚に投与させて他者を自身の犯行に巻き込んだ。悪質というほかない。動機も身勝手きわまりない。 刑事責任は重大で、有期懲役刑は考えられない。科すべき刑は死刑か無期懲役だ。死刑を選択することがやむを得ないか判断するため、量刑検索システムに登録された事案の他、3人が殺害されたそれ以外の事案も参照し、検討する。 被告は自閉スペクトラム症の特性を有し、臨機応変な対応が要る看護師の資質に恵まれていなかった。うつ状態で退職も考えたが、決断できなかった。ストレスで視野狭窄(きょうさく)的心境に陥り、不安軽減を求めて患者を消し去るという短絡的な発想に至った。努力ではいかんともしがたい事情が色濃く影響しており、被告のために酌むべき事情といえる。 逮捕後は事実を全て認め、公判では犯行当時は罪悪感や後悔は無かったなどと、自己に不利益な事情も素直に供述している。罪の重さを痛感して遺族らに謝罪し、被告人質問では償いの仕方がわからないと述べたが、最終陳述では死んで償いたいと述べるに至った。前科前歴がなく反社会的傾向も認められないことから、更生可能性がある。 総合考慮すると死刑選択を躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない。生涯をかけて罪の重さと向き合わせ、償いをさせるとともに更生の道を歩ませるのが相当であると判断した。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル