東日本大震災による「津波火災」を伝える宮城県石巻市の旧門脇小学校が4月に震災遺構として公開される。あの日、学校にいた児童たちは、被災の痕跡が生々しい校舎について「今後の防災にいかして」と願う。 石巻市の大学3年、田部辰昇(たつのり)さん(21)は当時、同小4年。帰りの会の最中に教室で揺れに襲われ、上履きのまま校庭へ。大津波警報が出て、同級生らと列になって学校裏の日和山に避難した。 日和山では、先生が用意した… この記事は有料会員記事です。残り450文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
無申告ギグワーカー見逃さない 国税、電商チームを強化
インターネットを使って単発で仕事を受ける「ギグワーカー」。自分の好きなタイミングで収入を得られる一方、それを税務申告しない人が相次いでいる。3月15日までの確定申告を踏まえ、悪質な場合は調査に踏み切る税務署もあるとみられる。 「電商」 各地の国税局には、こう呼ばれる部署がある。東京国税局の場合、課税1部の「電子商取引専門調査チーム」のことを指す。ネット取引の増加に対応するため、20年以上前に設置された。近年はギグワーカーや商品を高額転売する「転売ヤー」、暗号資産(仮想通貨)売買で巨額の富を得た「億(おく)り人」らに対応できるよう、態勢が強化された。 国税庁によると、1件あたりの申告漏れ額は2019年度(19年7月~20年6月)から20年度にかけて、約1・5倍に増加した。 「当然、今年の申告は見ますよ」。国税関係者はそう明かす。念頭にあるのは、お金を支払って呼んだ女性たちと飲食する「ギャラ飲み」と呼ばれるサービスをめぐり、ネットを介して店に派遣される女性らだ。多い場合は月に1千万円以上を得ることも。ただ、こうした中で申告していない人もいるという。 関係者によると、無申告のケースはサービス運営会社に対する税務調査で得た資料を「電商」が分析して把握した模様だ。こうした情報は女性らの居住地を管轄する税務署と共有されている。 国税はこうしたギグワーカーらと利用客をつなぐ役割を果たすプラットフォーム(PF)事業者へのアプローチを重視。「ギャラ飲み」にとどまらず、ギグワーカーの代表格と言える飲食宅配サービス「ウーバーイーツジャパン」の配達員をめぐっても、国税がPFであるウーバー側に報酬などの情報提供を求めたことが明らかになっている。 こうしたギグワーカーらは、働き方の多様化や新型コロナウイルスの感染拡大などを背景に増加。その一方で、その所得は把握しづらいとされる事情がある。 通常会社と雇用関係にある会… この記事は有料会員記事です。残り383文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「オンライン地蔵」、周りにいませんか プロが解く無駄な会議撲滅法
みなさんのまわりにも無駄な会議、ありませんか。人材開発や組織開発に詳しい立教大学の中原淳教授に、無駄な会議の撲滅方法と、コロナ禍のもとでの会議のあり方を聞きました。 ――ダメな会議とはどのようなものだと思いますか いくつかあると思います。 ①会議が終わっても何も決まらない ②終了予定時刻に終わらず、延々と延長する ③話し合わなくていいことで会議を開く ④誰も見ない議事録をつくる 今は、パソコンでみんなが画面見ていますよね。パソコンで必要なメモをとって共有すれば終わりです。一言一句、発言を起こしても誰も読みません。 会議資料の印刷もやめた方がいいと思います。パソコンで簡単に共有できますし、資料を印刷してホチキスでとめる仕事をする代わりに、他の仕事をした方がいい。 まず、「その仕事は『会議なし』でできないか」と考えてみてみるべきです。そのうえで、会議が必要だという結論に達したら、「会議が終わった時に何が決まっているか」をイメージする。会議の主催者がはっきりとゴールを明示すべきでしょうね。あとは、終了時刻を意識して、長引かないようにしっかり時間をコントロールしていくことが必要だと思います。 ――コロナ下での変化はありますか。 オンラインの会議で生産性は「爆上がり」したと思います。一方で、オンライン会議に気軽に「招待」するようになり、必要のない会議が開かれたり、必要のないメンバーが呼ばれたりして、勤務時間が増えている可能性があります。 「オンライン地蔵」をよく見かけませんか。ビデオをオフ、音声をミュートにして、一言も発さずに会議を退出していく人です。多分、オンライン地蔵側も「なんで自分が呼ばれたんだろうな」って思っていると思います。 パソコンの向こう側ではストレッチをしているかもしれません。そういった会議は、発言を求められなかったり、発言をすると責められたりする雰囲気があるのかもしれません。 実際に私が大企業と打ち合わせをすると、部長、課長、係長、仲介のプロダクションに代理店……と人数がやたらと増えます。企業の人たちに話を聞いていると、「これ以上無駄なものはありません」ってみなさん言うんですよ。 ただ、聞き取ったことを口外しないという心理的安全性を確保した上で聞き取りをすると、出てくる出てくる。無駄のオンパレードです。 従業員の方は、職場の仕事に無駄があるって知っているんです。ただ、それを言い出せない。干されるのでは、という不安から「こんな無駄はやめましょうよ」と切り出せないんだと思います。 ――2017~18年に「無駄な会議」について調査されました。 当時、長時間労働の是正や働き方改革というのが問題になっていて、大手人材サービスグループの研究機関「パーソル総合研究所」と調査をしました。 企業へのヒアリングでは、IT機器の導入など企業が努力してハード面は進歩していました。一方で、仕事のやり方というソフト面では、みんなが無駄と思っているけど言い出せずに改善できていないんだと思いました。 6千人のビジネスパーソンに調査したところ、社員層で23・3%、上司層では27・5%と、4分の1が会議に無駄が多いと感じていた。会議時間の4分の1が無駄だとして、そこに人件費を掛け合わせると、どのくらいお金がかかっているかがわかると思います。 企業のマネジャーに「その会議、見直しませんか」といってもピンときませんが、1時間の会議に20人の社員が参加したとして、時給をかけてみてくださいと言うと、びっくりする値段が出ます。やっぱり意識しないことには、なかなかルーティン化したものを見直そうと思わないですよね。 ――コロナ禍で会議のあり方を模索している企業も多いのでは。 組織は「形状記憶合金」みた… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
コロナ下で参加者20人→200人 トヨタが会議を変えた理由
「長時間の会議」「大人数の会議」。そう聞くと、一般的にマイナスなものを連想しますが、そのイメージを払拭する取り組みを続ける企業があります。歴史をひもときながら、コロナ下の「良い会議」とはどのようなものかを考えます。専門家に聞くと、今は会議のあり方を再考する絶好のタイミングなんだとか。 日本ではいつごろから会議が開かれるようになったのか。「専門家の中でも意見が分かれますが、古代では会議は開かれていても議論をしている形跡があまりないようです」。そう話すのは、立命館大学の美川圭教授(日本中世史)だ。詳しい会議のやり方の記録が残るのは、平安時代になってからだという。そして、その時からすでに会議には様々な「ルール」が存在していたようだ。 平安時代にもあった会議のルール 美川教授によると、平安時代に入ると「陣定(じんのさだめ)」という会議が9世紀後半ごろに始まったとみられ、身分の高い貴族たちが集められていた。この会議では、全員が発言を求められていたようで、萎縮しないよう発言の順番は身分の低い人から。それぞれの発言をまとめた議事録が作られ、天皇に提出されていたという。 全員が発言せねばならず、しかも記録が残る――。すごいプレッシャーに違いない。会議に呼ばれていたのは15~20人ほどというが、実際に来ていたのは5~10人ほど。半数近くは、発言を求められるのを恐れて「サボっていたのでは」と美川教授はみる。 その理由は、貴族たちが残した日記にある。「あいつは無能である」「あいつはわかっていない」「こんなことで間違えている」などと、会議の発言についての辛辣(しんらつ)な言葉が並んでいるという。 マナー違反は「失(しつ)なり!」 会議には様々なルールがあったとみられ、ルールをまとめたカンニングペーパーを持参する人までいた。服装を間違えた貴族には「失(しつ)なり!(なんと失礼な)」と厳しい言葉も。現代で言えば、スーツで行かないといけない会議に普段着でひょっこり現れるような粗相にあたるかもしれない。 平安時代後期ごろに院政が敷かれ、権力が肥大化すると、会議が形骸化していったという。会議自体が開かれずに、大事なことが決まることも多々あったという。その後に会議が開かれることもあったが、権力の暴走を止める機能を果たさないケースもあった。 「平安時代だけでも会議のありようは様々な変化があった。このやり方が正解というのは難しいのでは」。美川教授はそう語る。 長いときは午前9時半から午後4時まで 異例の会議形式で新商品続々 さて、時代はくだって現代の話。「人数が多い」「時間が長い」と一般的には敬遠されがちなやり方に、価値を見いだす会社もあるようだ。 車の販売台数が2年連続で世界1位のトヨタ自動車。コロナをきっかけに情報伝達の方法をがらっと変えたという。 毎週火曜日の朝は役員約20… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
甘み+酸味でおいしさアップ 肉団子と野菜の甘酢炒め
肉団子と野菜の甘酢炒め=合田昌弘撮影 記事の後半で、作り方のポイントを動画でご覧いただけます 酢豚やエビチリに代表されるように、甘酸っぱい味付けは中国料理の定番です。人気料理シリーズ第3回は、たっぷりの野菜がお肉を引き立てる「肉団子と野菜の甘酢炒め」です。 肉団子にはひき肉を使うのでまとまりやすく、刻んだロース肉を入れると歯ごたえのある食感に。混ぜるときは調味料を入れてなじませてから片栗粉を加えると、まんべんなく味がついておいしく仕上がります。野菜と合わせる前に多めの油で肉団子を焼くことで、うまみを閉じ込めて崩れにくくなります。 「甘酸っぱい」は中国語で「糖醋(タンツー)」。イタリア語ではアグロドルチェ、フランス語ではエーグルドゥースと言い、アジアでもヨーロッパでも好まれている味です。人は甘いだけより甘酸っぱい方を好むという研究結果もあり、調理科学を監修したミツカングループ中央研究所の石井翔さんは、「甘酸っぱさは人類に共通して受け入れられる味だと考えられます」と話します。(前田朱莉亜) 肉団子と野菜の甘酢炒め 材料・2人前 料理監修:吉田勝彦さん(中国家庭料理ジーテン) □ ニンジン 30g □ レンコン 30g □ タマネギ 30g □ 菜の花 20g □ 豚ひき肉 100g □ 豚ロース肉 100g □ 肉団子の下味(塩、白コショウ、酒、片栗粉) □ 調味料(酢大さじ3、砂糖大さじ2、酒・しょうゆ各大さじ1) □ ゴマ油 小さじ1 【作り方】 ①ニンジンとレンコンは幅5mmのいちょう切り、タマネギは幅2cmの乱切りにする。菜の花は3cm幅に切る。 ②豚ロース肉を5mm角に切り、豚ひき肉と一緒にボウルに入れ、塩ひとつまみ、白コショウ少々、酒大さじ1を加えて混ぜる。片栗粉小さじ1を加え、さらに混ぜる。直径3cmの肉団子を8個作る。 粘りが出るまで混ぜてから片栗粉を入れる。手で回しながら時々下に押しつけるように肉だねを混ぜる=合田昌弘撮影 人さし指と親指で肉だねを搾り出して丸める。手に少量の油をつけると、肉がくっつきにくくなる=合田昌弘撮影 … この記事は会員記事です。残り1017文字無料会員になると月5本までお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
地図好きにたまらない部屋はいかが? ホテルに登場テツにもおすすめ
地図好きにはたまらない部屋が、1年間の期間限定でJR九州ステーションホテル小倉(北九州市)の1室に登場する。3月1日から宿泊でき、現在予約を受け付けている。 北九州市に本社がある地図大手「ゼンリン」とコラボし、「地図さんぽの部屋」と名付けられた。 部屋の西側の壁には、ゼンリンが所有する1959(昭和34)年の北九州5市観光イラストマップと、1715年に西洋で作られた貴重な日本の古地図のレプリカを掲示。東側の壁には、部屋の窓から見える景色の地図を柄にした壁紙を貼った。北側の壁には、関門海峡を望む立体3D地図を飾っている。地図の柄のマグカップや北九州の地図の関連書籍も客室に備える。 壁紙の地図にはあえて、地名や建物名などの詳細は記していない。ゼンリンの担当者は「地図好きな人は、『みなまで言うな』と調べるのが好きな人が多い。あそこに見えるのは何かなと探究心が刺激され、街へ散歩に出たくなる部屋になれば」と期待する。 鉄道ファンと地図ファンは重… この記事は有料会員記事です。残り219文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「医療現場のリアル」中高生に 学校図書室の司書が選ぶイチオシ本は
本をお薦めしてくれたり、授業に役立つ資料を探してくれたり。多くの学校の図書室では、司書とも呼ばれる本選びの職員が働いている。そんな彼ら「イチオシ」の本が、ランキング形式でまとめられた。生徒だけでなく幅広い年代に本を提案しつつ、学校で働く司書のことを知ってもらう企画だ。 企画は「中高生におすすめする司書のイチオシ本」。京都府内の私立中学や高校で働く司書らに、発売された新刊本のなかから生徒に読んでほしい本はどれかについてアンケートを取り、上位13作品までのランキングにまとめた。 アンケート上位13作品を紹介 主催したのは、府内の私立中高40校でつくる府私立学校図書館協議会・司書部会。このうち28校で働く司書ら48人がアンケートに参加した。 府では、司書はすべての公立高校と多くの私立高校の図書館にいる。本の貸し出し作業に加えて、本を読み手に紹介することが主な仕事だ。 公立図書館などで働く司書が一般的に知られているが、学校図書館の司書はディベートの授業で使うために賛成と反対の立場で書かれた本を用意したり、教員用の教材を準備したりと、授業のサポートもしている。 本にまつわる仕事だけではない。「居場所づくりも大切な役割です」。京都聖母学院中高(京都市伏見区)の図書室に約30年間勤める末次雅子司書教諭は、そう話す。 悩み相談も仕事 日々、「お母さんとけんかした」などの生徒の悩みに耳を傾けたり、食事や睡眠がとれているか聞いたり。必要に応じて、担任や保護者とも連携する。 「先生と生徒という関係ではない、気軽に話せる大人がいることが大切です」と末次さん。 そんな学校の司書の仕事を知ってもらいつつ、司書の提案力によって生徒だけでなく幅広い年代にも良本を紹介しようというのが、企画の狙い。2018年に始まった。 同様の企画は、神奈川県と埼玉県で10年以上、また岡山県でも行われているという。 末次さんは昨年度の同企画に事務局メンバーとして関わった。「司書や図書館スタッフは、学校という閉じられた場所で働きます。この企画で司書やスタッフ同士で交流し、生徒や卒業生、外の人から感想をもらえることがうれしいです」と話す。 さて、今回の1位。 選ばれたのは、新型コロナウ… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
日本年金機構に公取委が改善要請へ 談合情報を通報せず 強く問題視
ねんきん定期便のはがきや封書=田中恭太撮影 日本年金機構(東京)が年金加入者に送る「ねんきん定期便」などの入札をめぐる談合事件で、機構が事前に談合情報を得ながらも通報していなかったとして、公正取引委員会が近く機構に対し、速やかな通報など対応の改善を求める方針を固めた。談合防止を図るべき発注機関の対応として、不適切だったと強く問題視しているという。関係者への取材でわかった。 この事件では、印刷業者26社が、ねんきん定期便などの印刷や発送の準備業務の入札や見積もり合わせで受注調整をしていた疑いが持たれている。公取委は近く、各社に排除措置命令や計約14億円の課徴金納付命令を出す方針を固めている。 機構や複数の関係者によると、機構は2016年1月、談合があるとの情報を入手。急きょ、月内に予定していた入札を取りやめ、業者に聞き取りをした。だが各社は談合を否定。機構は談合を疑わせる事実は確認できないとして、公取委に通報せず、追って入札を再開し、談合が行われた。 公取委もこうした経緯を把握。再発防止には業者の行政処分だけでなく、機構に対応改善を申し入れる必要もあると判断した模様だ。 朝日新聞が入手した機構の内… この記事は有料会員記事です。残り256文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「生きていてよかったじゃないか」 ときどき自分に語りかける
ノンフィクション作家・井口隆史さん つらいことが重なって、「いっそ死んでしまいたい」とか、「死んだほうがましだ」とか思うのは、よくあることだろう。だが、身動きがとれず、自死の方法もないというのが、ALSの行き着く先だ。 舌を嚙(か)み切って死ぬという話があるが、あれは眉つばものである。私はこの病気のせいかどうかは分からないが、近ごろ誤って、よく舌をかむことが多い。死ぬかと思うほどの痛さだ。でも、切れて腫れることはあっても、ほとんど出血はない。舌を嚙み切る苦痛をこらえられる人なら、生きるためのどんな苦痛にも耐えられるはずである。 自死の選択肢がないとなれば、私などはかえって邪念がなくなる。どうあっても、生きるしかないからだ。生きていて申し訳ない、と思う場面に遭遇したって、生きるしか方法がない。 2020年7月、SNSで「… この記事は有料会員記事です。残り1240文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
宇宙に行ける時代、中川翔子さん「夢は無限」 朝日宇宙フォーラム
【動画】有人宇宙活動について考えるシンポジウム「朝日宇宙フォーラム」が開催された 将来の月探査や宇宙での健康管理などを語り合う「朝日宇宙フォーラム2022」(主催・朝日新聞社、後援・宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉、協賛・ヤクルト本社、協力・ANAホールディングス、BASE Q)が1月、東京都千代田区で開かれた。油井亀美也飛行士が「宇宙開発と人類の未来」をテーマに講演したほか、13年ぶりに始まったJAXAの飛行士募集などを語り合った。 油井飛行士 「ISSはホワイトな職場」 私は国際宇宙ステーション(ISS)で142日間滞在しました。飛行士はテレビで見るとぐるぐる回ったり、食事をしたりと楽しそうですが、実は分刻みのスケジュールで朝から晩まで仕事をしています。ただし、仕事は約8時間。地上のお医者さんが私たちの健康状態を管理していて、残業をする時は許可を得ないといけない。ホワイトなすばらしい職場です。 宇宙は無重力ですから、少ない力で移動できてしまいます。快適で楽ですが、そのままでは筋肉は地上の2倍、骨は10倍の速さで弱くなっていくことが分かっています。それを防ぐため、毎日2時間の運動が必須でした。 地上にいると、私たちの血液や体液は重力で足のほうへ引かれますが、宇宙ではそれがなくなり、体液が体に均等に行き渡るようになります。その結果、地上で177センチだった私の身長は、宇宙で測ると夢の180センチ超えになりました。体重もちょっと減ります。ウエストがすごく細くて、足も細くなっていた。スタイルがむちゃくちゃ良くなってびっくりしました。 昨年、実業家の前沢友作さんがソユーズ宇宙船でバイコヌール宇宙基地から飛び立ちましたが、私も同じ場所から宇宙へ飛び立ちました。ロシアの宇宙船なので当然、会話はロシア語です。宇宙ステーションに着くまでは6時間。米国に行くよりも短い時間でISSに着いてしまいます。 ISSでは毎日、実験をしていました。高品質たんぱく結晶の実験は、地上で役立つ薬を作る実験です。植物がどう重力を感じているのかという実験もしていました。日本の実験は非常に進んでいると思います。 私のミッションのハイライトは、日本の補給船「こうのとり」をロボットアームでつかまえることでした。その前に米国やロシアの補給船の失敗が続き、ISSは物不足になっていましたが、日本の補給船がしっかりと物資を届けてくれたのです。よく子供たちから「ロボットアームの操作とクレーンゲームとどちらが難しいですか」と言われますが、私はたくさん訓練しているので、ロボットアームでつかまえるほうが楽だと思います。 宇宙にいた142日はあっという間 142日はあっという間に過ぎ、帰る前の会見で「帰りたくないです」と言ったのを妻が聞いていて、後で「帰ってきなさい」ととても怒られました。帰ってくる時は本当に寂しかったです。でも、宇宙から富士山を見た時は日本が恋しくなって帰りたくなりましたね。やっぱり富士山は、日本人にとって特別かもしれません。 現在、月を回る軌道に宇宙ステーションをつくって、月面探査をしようという米国主導の「アルテミス計画」があり、日本も参加を表明しています。ここから10年、20年、30年で月に基地ができ、たくさんの人が月から地球を眺める時代がくると思っています。JAXAはその先駆けとなる、月を目指す飛行士を募集しています。我こそは月で活躍してやろうという人に、後輩になっていただけたらと思います。 宇宙開発の歴史や飛行士募集… 登壇者らが討論 ――昨年は実業家の前沢友作さんがISSを訪問するなど、宇宙旅行が本格化しました。そのISSでは星出彰彦飛行士が船長も務めました。 川崎 人類の宇宙開発の歴史を振り返ると、約20年ごとに節目があります。1960年に旧ソ連(ロシア)の「ボストーク1号」で飛行士が初めて宇宙に行き、80年代には米国のスペースシャトルが初飛行し、ロシアが宇宙ステーション「ミール」を建設し始めました。ISSの建設は2000年ごろに始まり、20年代には日本人飛行士が月に行こうとしています。その先は火星に向かうという話にもなっています。 油井 昨年、地質学の訓練を始めました。なぜ地質学の訓練が必要かというと、月に降り立った飛行士が地質学を知らないと、転がっている石から意味のある物を見分けて、持って帰ることができないからです。訓練は結構実践的で、ほかの惑星の写真を見せられて「これを地質学的に説明しなさい」みたいなものもありました。 ――ISSのほか、月や火星探査となると、長期滞在によって筋力が弱り、地球に帰還した後はリハビリが必要です。今回、そのリハビリを中川さんに体験いただきました。 中川 やっぱり体幹が重要で、いろんな筋肉を普段から鍛えておかないといけないんだと思いました。宇宙にいきなり行ったら、体力も筋力もかなり奪われると分かったので、体験後、バランス感覚を鍛える器具を買いました。 油井 宇宙でも運動をしていれば筋力は維持できるのですが、バランス感覚はどんどん衰えてしまいます。私も帰還して宇宙服を脱ごうとした時、頭の重みを完全に忘れていて、前につんのめって頭を地面にぶつけそうになりました。 川崎 短期間の宇宙旅行であれば、これほどのリハビリは必要ないと思うのですが、「宇宙酔い」という言葉があるように、行って3日間くらいは体調がどんどん変わります。どう対応すればいいのかはわかっているので、私たちの知見を活用していきたいです。 ――13年ぶりに始まった飛行士の募集では、要件が大幅に緩和されました。例えば、これまでは身長158~190センチの人しか応募できなかったのが、149・5~190・5センチに広がりました。 中川 実は私、157センチで、これまでの募集では1センチ足りなかったんですが、「これは来た」と。本当に今、書類を書いています。 川崎 身長の制限は、ロシアの宇宙船の大きさで決まっていたんですが、米国の宇宙船が新しく開発されたことで、緩和できるようになりました。 応募条件は文理、学歴が不問に ――学歴も理系の大学を卒業していなければいけませんでしたが、ほとんど不問になりました。 油井 訓練についていければ、文系でも大丈夫と思います。社会人としてどれだけ理系の考え方を身に付けてきたのかとか、理系の素養を持っている人がターゲットになります。 川崎 文系の大学だったとか学歴がないとか、そういうところで諦めていた人の中に、本当に飛行士に向いている人がいるかもしれない。油井さんも最初は、自分は資格がないような感じで、受験しながら「落ちた」と毎回言っていたらしいですが、その中で素晴らしい人がいるんです。入り口で制約を設けるのはおかしいということになり、文系や理系、そして学歴も関係なしに募集することになりました。 ――油井さんの選考はどんな感じでしたか。 油井 いろんな背景を持った人たちが集まって、試験を受けていくうちに非常に絆が強くなりました。最終試験に残ったファイナリストの10人とは長時間をともに過ごし、最後は「結果はどうでもいいや」と思えるくらいになりました。一生の友達ができたのが一番の思い出です。 中川 宇宙に行くには覚悟も必要とは思いますが、宇宙は人類にとって最大の夢の一つだと思います。今回の応募条件の緩和は、「夢は誰でも持つ資格があるんだよ」と言ってくれているように思いました。チャンスがある人は応募すべきじゃないかと思います。 ――どういう人物を求めていますか。 川崎 まだ人類が行っていない場所に立って、どんな感情を持つのか。感じたことを地球上に持ち帰って、私たちに共有してほしい。これを「発信力」と呼んでいます。その方法は言葉だけでなく、いろいろあるでしょう。中川さんなら漫画や音楽かもしれない。 中川 見た景色や気持ちを歌にしたいし、ライブもしたいし、油絵で描いてもみたいです。チャンスが広がっている。すごく夢をいただきました。 油井 目標を成し遂げるのは大変で、努力の継続が重要です。そこで大事なのは「好き」という気持ちです。好きなことは、どんなに大変でも続けることができる。子どもたちには、好きという気持ちを大切にしてほしい。そして、一人でも多くの方が宇宙に興味を持って、飛行士を目指してほしいと願っています。(構成・小川詩織) 飛行士の体調維持へ ヤクルトとJAXAが実験 実業家の前沢友作さんが昨年、2週間ほどISSに滞在したように、多くの人が宇宙へ旅行する時代が近づいている。JAXAの小川志保・きぼう利用センター長と、ヤクルト本社の長南治・中央研究所研究管理センター所長が最新の医学研究について解説した。 宇宙で長期滞在すると、骨や筋肉が減ったり、尿路結石になったり、免疫機能が低下したりといった問題が出てくる。閉鎖環境でのストレスによる精神心理的な課題、宇宙放射線による被曝(ひばく)といった問題もある。長南さんは「飛行士のミッション遂行のためには、ベストな体調を維持することが必須。地上から直接の医療支援が行えない状況で、体の悪い変化を未然に防ぐことが重要だ」と話す。 乳酸菌で腸内環境を改善することで、免疫機能を維持できるという地上での研究結果があることから、長南さんらは「宇宙でも乳酸菌が有効ではないか」と考えた。飛行士に乳酸菌を飲んでもらう実験を、2017年からJAXAと共同で始めた。 現在も、ISSに滞在している飛行士に乳酸菌を飲んでもらい、免疫機能への効果を検証している。小川さんは「宇宙での成果を地上で暮らす皆さんに届けていきたい」と話した。 なかがわ・しょうこ タレント・歌手。小学生の時に見たヘール・ボップ彗星(すいせい)に感動して宇宙好きに。深海調査船で日本海溝に潜ったことがあり、次は宇宙に行きたいという希望を持つ。自身のユーチューブチャンネル「中川翔子の『ヲ』」は登録者80万人超。 ゆい・きみや 防衛大学校理工学専攻卒、航空自衛隊に入隊。2008年の募集で飛行士候補に選抜。11年に基礎訓練を終了。15年に国際宇宙ステーションに長期滞在し、日本人で初めて無人補給船「こうのとり」をロボットアームでつかまえた。16年からJAXA宇宙飛行士グループ長。 かわさき・かずよし 1987年、宇宙開発事業団入社。国際宇宙ステーションの開発や月惑星探査計画などに携わる。2015年に宇宙探査イノベーションハブを立ち上げ、異分野との連携を推進。20年からは事業推進部長として、飛行士募集などを担当。 ◇パネル討論のコーディネーターは科学医療部の東山正宜次長、司会はフリーアナウンサーの田村あゆちさんが担当しました。 Source : 社会 – 朝日新聞デジタル