漫画家の尾添椿(おぞえつばき)さんは、父の太ももに残された、大きなやけどの痕を覚えている。 「子どもの時、真っ赤に焼けた火かき棒でおやじに殴られた」と、父は話していた。背中には数カ所、刺し傷があった。祖父に串や箸で刺されたのだという。 「虫の居どころが悪いとすぐ殴られた。バットや木刀もあった」。父が17歳で家を出るまで、日常的な暴力は続いた。 ところが、尾添さんの記憶の中の祖父は、まるで違った。「家族の中で唯一、私のことを守ってくれる、優しい祖父でした」 初めて祖父に会ったのは20年ほど前。尾添さんが10歳のころだった。祖母が亡くなり、独り残された祖父が、尾添さん家族と同居することになった。 祖父は心臓が悪く寝ていることが多かったが、体調がいい時は日曜大工で家具を作った。声の小さい、90歳手前のおとなしい老人だった。ただ、笑ったところはほとんど見なかった。 当時、尾添さんは転校先の学校でいじめられ、泣いて帰っても両親はまともにとりあってくれなかった。「きちんと接してくれるたった一人の大人」だった祖父の傍らが、自然と居場所になった。 ある日、父のやけど痕について祖父に聞いた。祖父はかすれ声で語り始めた。 当時9歳だった父と一緒に… Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
サポーターが来た町、去った町…サンフレ新スタジアム試合に何思う?
J1サンフレッチェ広島は23日、新たな本拠地「エディオンピースウイング広島」(広島市中区)での初のシーズンマッチに臨み、ほぼ満席の2万7545人の大観衆の中、2―0で浦和レッズを破り、白星を飾った。昨シーズンまで本拠地だった「エディオンスタジアム広島」(同市安佐南区)の地元はこの日、何を思い、新本拠地の地元はどんな思いで迎えたのか。(根本快) キックオフ前の正午過ぎ、旧本拠地のエディオンスタジアム広島(Eスタ)の最寄り駅、アストラムライン広域公園前駅は静かだった。昨シーズンの今ごろは、大勢のサポーターが改札口からぞろぞろとスタジアムへの道を歩いていた。 駅はいまもサンフレのチームカラー、紫色をまとう。サンフレの歴史を振り返るパネルやユニホームが展示され、階段にはエンブレムがあしらわれている。 駅はJリーグ発足の翌年1994年に開業した。いまの装飾は、クラブ創設25周年を記念して2017年に彩られた。当時の発表資料は「駅に到着したファンは高揚感に包まれ、応援に力が入ります」と威勢がいい。路線を運営する広島高速交通の担当者によると、駅の装飾を今後どうするかは検討中という。 駅を降りたスタジアム側には、いくつかの飲食店が軒を並べている。 忘れられない男性サポーターの客 赤色の看板が目印の「焼肉 咲咲(さくさく)亭」。午後2時のキックオフ直後に訪ねると、代表の上田旨崇(よしたか)さん(40)は「試合当日のにぎわいが無くなって、寂しい気持ちはあります」と話した。Eスタでホーム戦がある日は、お客さんの3人に1人はサンフレのユニホームなどを着たサポーターだった。 忘れられない人がいる。試合… この記事は有料記事です。残り1616文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
戦火のウクライナから福島へ 地元スーパーで働く留学生の「恩返し」
パンを売り場に並べながら、日本語で「いらっしゃいませー」。戦火のウクライナから避難してきて福島県いわき市の東日本国際大で学ぶ女子学生が21日から、市内のスーパー・マルトで働き始めた。将来も日本で働くため、パート勤務で経験を積むことに。来日以来、生活用品を支援をしてきたマルトに恩返しをしたいと同店を希望した。 学生は激戦地マリウポリ出身のソフィア・ビジャズさん(20)。首都キーウの大学で日本語を学んでいた。2022年秋、就学に必要な日本語を学ぶ同大の別科に入学。今年9月の修了まで、当面は週2回、マルト平尼子店のベーカリー部門で総菜パンの調理やレジ接客などをする。 ロシア軍が侵攻してきた時は… この記事は有料記事です。残り640文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「映画館の街」だった渋谷の姿とは 通りの名前にも 3月まで企画展
多くの市民にとって娯楽の代表施設だった映画館の観点から、渋谷の歴史をたどる企画展が、渋谷区郷土博物館・文学館で開かれている。区内には最も多いときで30以上の映画館があり、渋谷は「映画館の街」とも呼ばれたという。収集家から多数の資料が寄せられ、企画展が実現した。 明治のころの渋谷は、かつての大山街道の一部、道玄坂を中心に発達した。このため初期の映画館は、駅周辺というよりも当時盛り場だった道玄坂一帯に多く誕生した。 1917年(大正6年)に開館した「渋谷劇場」もその一つ。もとは明治時代にできた「豊沢亭」という芝居小屋だった。当時は芝居小屋や寄席から転身した映画館が珍しくなかった。 太平洋戦争の空襲により、区内の映画館も多くが失われたが、戦後の復興とともに再び増えた。このときは渋谷駅周辺が開発の中心となり、56年(昭和31年)に駅の東側にできた東急文化会館には「パンテオン」など四つの映画館が入り、渋谷を象徴する施設となった。 ピークの1960年(昭和35年)には区内で33館を数えた。現在の文化村通りはかつて、映画館「渋谷大映」にちなんで大映通りと呼ばれた。「それだけ、映画館は街にとって大きな存在でした」と、企画展を担当する田原光泰学芸員は話す。この場所には現在、MEGAドン・キホーテ渋谷本店がある。 収集家が多数提供 出展される資料約200点の… この記事は有料記事です。残り244文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
なお6千人、改善さぐる1次避難所 防犯や居住レイアウトに工夫
能登半島地震で、なお6200人以上が地域の1次避難所に身を寄せている。避難生活が長期化する中、子どもの夜泣きや騒ぎ声、女性の安心の確保といった問題に悩む人もいて、環境の改善が求められている。 夜泣きに「申し訳ない」 石川県能登町の町立能都中学校では、段ボールで仕切られただけの体育館で、70人ほどが避難を続けている。午後10時に消灯した後、幼い子どもの泣き声が響くことがある。全世帯の2割ほどが子育て中で、就学前の子どももいるからだ。 休職中の女性(35)は、次女(3)の夜泣きに悩む。「毎晩いつ泣き出すか、わからない。周りは『大丈夫』と言ってくれるが、迷惑をかけて申し訳ない」。夫(37)は「妻の心労は相当たまっている」と気遣う。 ホテルなど、より快適な2次… この記事は有料記事です。残り1205文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません 能登半島地震 1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする強い地震があり、石川県志賀町で震度7を観測しました。被害状況を伝える最新ニュースや、地震への備えなどの情報をお届けします。[もっと見る] Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
中村力・元衆院議員を傷害容疑で逮捕 女性を殴ってけがをさせた疑い
2024年2月24日 22時40分 盛岡市内で女性を殴ってけがを負わせたとして、岩手県警は24日、元衆議院議員の無職中村力容疑者(62)=盛岡市=を傷害の疑いで逮捕し、発表した。盛岡東署によると、中村容疑者は「殴っていない」と容疑を否認しているという。 発表によると、中村容疑者は24日午前9時ごろ、盛岡市内の雑居ビルで市内の30代女性を殴り、擦り傷などのけがを負わせた疑いがある。女性からの110番通報で駆けつけた署員が緊急逮捕した。女性とは面識がないという。署は、詳しい経緯などを調べている。 中村容疑者は1993年の衆院選で旧岩手1区に無所属で立候補して初当選。1期務めたのち、2023年9月の岩手県議選盛岡選挙区に日本維新の会から立候補したが、落選した。 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
交付金、現役世代にも対象拡大 伝統産業支援も 能登地震で首相表明
岸田文雄首相は24日、能登半島地震で被災した石川県を視察した。住宅再建に向けた新たな交付金制度について、高齢者や障害者のほか、現役世代でも住民税非課税世帯などに対象を広げる方針を表明。財源として、今年度予算の予備費から1千億円規模の追加支出を週内にも決めるとした。 同県輪島市で記者団の取材に応じた。新たな交付金は、輪島市など県内6市町が対象。半壊以上の住宅被害が出た高齢者や障害者がいる世帯のほか、現役世代でも住民税非課税世帯や児童扶養手当の受給世帯などに最大300万円を支援する。首相は「高齢者から子どもまで住宅に被害を被った被災者世帯に必要な支援をしっかり届け、地域コミュニティーの再生につなげていきたい」と語った。 また、壊滅的な被害を被った伝統産業の輪島塗の事業者への支援として、全額国負担で臨時の仮設工房を建設し、4月の開設を目指す考えも明らかにした。(川辺真改) 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません 能登半島地震 1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする強い地震があり、石川県志賀町で震度7を観測しました。被害状況を伝える最新ニュースや、地震への備えなどの情報をお届けします。[もっと見る] Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
「できること自分で」輪島の飛び出たマンホール、被災者自らスプレー
能登半島地震で大きな揺れに襲われ、地下のマンホールが道路から浮き上がったままの状態になっている石川県輪島市河井町。24日、飛び出たマンホールに車が乗り上げてしまわないよう、蛍光色のスプレーを吹き付ける夫婦の姿があった。 金物店を営む室栄司さん(56)と妻の直美さん(55)。自分たち自身で作業してもよいか市に確認した上で、店にあったスプレーを使い色をつけた。 室さん夫妻が住んでいた古い木造の店舗兼住宅は、地震で道路側に倒壊した。数日前に水道復旧工事のために取り除かれ、倒壊した建物の下に隠れていた、液状化の影響で飛び出したとみられるマンホールがむき出しになった。室さん夫妻は、車の運転手に目立つようブロックを置いたが、車が乗り上げることがあったという。 工事で水道が使えるようになり、近所の知人と喜び合っていた直美さん。「みんな復旧作業で忙しいので、できることは自分たちでやりたい」(上田幸一) 有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません 能登半島地震 1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする強い地震があり、石川県志賀町で震度7を観測しました。被害状況を伝える最新ニュースや、地震への備えなどの情報をお届けします。[もっと見る] Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
群馬高2自殺、いじめ認定を拡大 直接の因果関係は認めず 再調査委
群馬県立高校2年の女子生徒(当時17)が2019年2月に自殺した問題で、県いじめ再調査委員会(八島禎宏委員長)は24日、自殺の背景をまとめた報告書を、山本一太知事に答申した。自殺の原因について「いじめを含む様々な要因がストレスとして働き、自死することになった」としたものの、いじめと自殺の直接的な因果関係は認めなかった。 一方で、20年11月の県教委の第三者委員会による調査結果よりいじめの範囲を拡大して認定したほか、学校の対応について「相談体制が機能していれば、命は守れた」と責任を指摘した。 女子生徒は19年2月に前橋市内の踏切で自殺した。遺族から「学校でのいじめが原因」との訴えを受けて、いじめ防止対策推進法の「重大事態」にあたると判断。県教委の第三者委が事実関係を調査し、20年11月、「自死の要因としては主要なものではない」などと、いじめと自殺との因果関係を認めない調査結果をまとめた。 その後、遺族から再調査の要請を受けて、弁護士や精神科医、心理学などの専門家でつくる再調査委が21年7月に発足。2年7カ月、26回にわたって、第三者委の調査で得られた資料の検討・検証、飼い猫の死の影響など、遺族の要望をふまえた事柄を精査した。同級生らへの新たな聞き取りはしていない。 再調査委がまとめた報告書で… この記事は有料記事です。残り742文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
79年前の「黒い雨」を追うジャーナリスト 謝罪から始まった取材
79年前、米軍の原爆投下後に広島で降った「黒い雨」。その正体を探るため、雨を浴びた100人近くを訪ね歩いた。 大学生のころ、広島で被爆者の証言を聞いた。自分の使命は「ピカドンの記憶」を伝えること――。2017年、毎日新聞社に入社し、被爆地での勤務を希望した。初任地は念願の広島支局だった。 入社から3カ月ほど経ったころ。8月6日の平和記念式典に向けた取材中、参列予定だった県外の被爆者に電話で話を聞いた。 「私より夫の方がひどかったのよ。夫は直接被爆で私は入市被爆だから。本当はそっちに話を聞いてほしいんだけどね」 原爆投下後まもなく爆心地付近に入った入市被爆の人よりも、直接被爆した人たちの話を聞くべきなのでは――。電話口の女性の言葉が強く印象に残った。 「これが黒い雨を否定していく最初のスタートになった」。小山さんは振り返る。「今思えば反省やけどね」 軽く考えていた「黒い雨」の被害 女性に話を聞いてからは爆心… この記事は有料記事です。残り2018文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 ※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません Source : 社会 – 朝日新聞デジタル