試験前日に慌てて英語の例文をたたき込む。大学入試の過去問題集を枕にぐっすり。真っ白なエントリーシートを前に、手に取った漫画を気がつけば全巻読破……。夢と焦りとただならぬ眠気に支配されていたあの頃、ここは私の自習室だった。
拡大する京都・銀閣寺道で開館48年目を迎える私設図書館。会話は厳禁で、静寂に包まれている=2020年8月11日、京都市左京区、槌谷綾二撮影
京都・銀閣寺近くで開館48年目を迎える「私設図書館」。築90年を超える木造民家を改装した2階建てはジブリ映画と見まごうばかりの和洋折衷、そこかしこに古風なランプがぼんやりともる。閲覧室の天井近くには作り付けの本棚が並び、空間の大半を占めるのはガラス板で仕切られた机と椅子。紙やペンの音だけが響く静寂の中、老若男女がノートやパソコン、参考書に向き合う。コーヒーか紅茶1杯が付いて2時間260円の座席指定制は、ネットカフェのようでもある。
「本を読みながら生活の糧が得られる仕事はないかな、と」。館主の田中厚生(あつお)さん(72)は私設図書館を始めた動機をそう回想する。京大在学中は、学生運動を横目に熱気球の飛行計画に熱中。卒業直後に結婚したものの会社勤めをする気は起きず、アルバイトなどでしのいでいた時、妻の祖母が使っていた空き店舗を借り受けることに。深夜まで読書や自習のできる小さな空間のイメージと、図書館法の分類にはない「私設図書館」というシンプルな言葉が浮かんだ。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル