北朝鮮のミサイル脅威など日本を取り巻く安全保障環境の緊張が高まっているとして政府は対応策を検討しています。中でも、ここのところクローズアップされる言葉の1つに「敵基地攻撃能力」があります。そもそも敵基地攻撃能力を保有するとはどのような状態で、なぜいま注目されているのでしょうか。
Q:敵基地攻撃能力って何?
日本が近隣国などから弾道ミサイルなどで攻撃される事態を想定し、相手国・地域の領域内にあるミサイルや発射装置、拠点施設などを攻撃する能力のことです。 自民党の防衛相経験者らでつくるミサイル防衛に関する検討チームが2020年7月、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」が必要だとの提言をまとめ、8月に政府に提出しました。提言には「敵基地攻撃能力」という文言はありませんが、実質的にその保有を求める内容です。
提言では、中国やロシアがマッハ5(音速の5倍)以上で飛ぶ極超音速滑空ミサイルを、北朝鮮が変則的な軌道を描く新たな弾道ミサイルを開発していることを念頭に、従来の日本のミサイル防衛システムを突破する新型ミサイルに対応する上で、相手領域内でも迎撃できる能力の保有が必要だと促しています。
Q:どうして急に注目されるようになったの?
政府が2020年6月、国内2か所に配備予定だった陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」(地上イージス)の導入計画を断念したことが発端です。自民党内ではそれ以前にも敵基地攻撃能力が議論されてきた経緯がありますが、安倍晋三首相は地上イージスの配備計画撤回を受けた記者会見で、敵基地攻撃能力について「政府でも新たな議論をしていきたい」と前向きな考えを示しました。議論が再燃した形です。
Q:相手の領域内で攻撃することは憲法違反?
憲法違反ではない、というのが日本政府の立場です。その根拠となっているのが、1956年の鳩山一郎首相(当時)の以下の国会答弁です。 「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば、誘導弾などによる攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います」(船田中防衛庁長官が代読) ただし、敵基地攻撃能力は自衛権の範囲内であって理論上は保有が可能としつつも、日本政府は敵基地攻撃につながる装備を持たない方針を現在まで堅持してきました。現在も自衛隊は敵基地攻撃能力を持っていない、ということになります。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース