来週末に大学入学共通テストが実施され、本格的な受験シーズンが到来する。新型コロナウイルスの感染が急拡大し、首都圏には8日から緊急事態宣言が出されるなか、無事に受験できるのか。各大学の個別試験はどうなるのか。受験生は不安を抱えながら、最後の追い込みに入っている。
7日、首都圏4都県への緊急事態宣言の発出が決まった。「なんでこのタイミングで出るのか……。正直、本当に不安です」。共通テストは予定通り実施される見込みだが、首都圏の公立高校3年の女子生徒(18)は、安心できずにいる。
共通テストは、国公立では1次試験として扱い、その後、大学ごとに2次の個別試験を行う。私立でも共通テストを利用する入試のほかに、個別試験もある。この先感染が急拡大し、各大学の個別試験が中止されて共通テストだけでの判定にならないか、不安だ。志望大学の個別試験の過去問を繰り返し解いてきただけに「やっぱり個別試験の結果で、合否を判定してほしい」という。
感染が拡大してきた12月中旬、急きょ、実力より低い私立大の奨学生向けの特別枠の試験を受け、合格した。試験に慣れる意味もあったが、この感染状況では合格をひとつは得ておかないと不安だったという。
8日の始業式は書類を受け取るために登校するが、その後は「感染が怖いから休むかもしれない」。家族とは食事の時間をずらし、接触も減らしている。「緊急事態宣言が出て個別試験はどうなるのか。大学は早く決めて公表してほしい」
各校の受験対策は
東京都立小金井北高校では7日、東京外国語大が6日にウェブサイトで公表した入試の変更内容を教室に貼り、他の大学についてもサイトをこまめに確認するよう、高3生に呼びかけた。感染拡大を受け、同大では前期日程の個別試験の英語の出題を削減し、時間も150分から90分に短縮。日帰りで受験できるよう、試験開始も午後に繰り下げるという。
小金井北高では、共通テストまで「特講」を行い、前日には「激励会」を今年は放送で行う予定でいる。杉本悦郎校長は「今回は、学校より家庭で勉強した方が安全な面もあり、冬休みの講習も少し短くした。緊急事態宣言を受け、来週は欠席する高3生が例年より増えるかもしれない。今後も続くであろう各大学の入試の変更情報を生徒にどう周知していけばいいか……」と悩む。
多くの生徒が共通テストを受験する埼玉県の県立高校では、生徒やその保護者がPCR検査を受けた場合には、学校に申し出て、結果の判明を待たずに休むよう求めている。冬休み明けの7日から共通テスト前日の15日までは、始業時間を繰り下げている。
それでも進路指導担当の教諭は、共通テスト当日の交通機関や受験会場での感染を心配する。特に昼食時が気にかかるという。大声で話す受験生が周囲にいた場合、周りの受験生の感染リスクが高まるだけでなく、その際のストレスで試験に影響が出かねないからだ。
会場となる大学は、文部科学省が出したガイドラインに沿った感染対策を講じることが求められている。「共通テストは入試のスタート。共通テストさえ実施できればいいと考えず、3月まで入試が続くことを考えて対策をとってほしい」
東京都の中高一貫の私立女子校では、4日からの受験生向けの特別講義をすべてオンラインにした。進路指導担当の教諭は「大学入試センター試験から共通テストへの変更や、コロナによる学校生活の混乱を受け、『なぜ自分たちだけがこんな目に』と思ってしまう生徒も多い」といい、精神面での支援にも努めているという。
影響は地方の受験生にも及ぶ。長野県の公立高3年の男子生徒(18)は都内の大学が第一志望だったが、新型コロナの感染者が急増している首都圏の大学への進学に両親が反対。地元の信州大に志望を変えた。「やはり東京は大変なことになった。志望は固めたので、後はがんばるだけだと思っている」と話す。
一方で、昨春、早稲田大に入学した女性(19)はコロナ禍が再受験の背中を押したという。第一志望の大学に落ちて早大に入ったが、オンライン授業ばかり。「なぜ入学したのか、わからなくなった」と仮面浪人を決意。昨年8月から予備校に通い、共通テストに臨む。「再挑戦するチャンスと前向きに考えたい」(宮坂麻子、編集委員・増谷文生、同・氏岡真弓)
体調、悪化した場合は…
新型コロナの感染が急拡大する異例の事態に、受験生らはどう対応すればいいのか。
体調が悪化した時には、共通テストの受験票に記載されている「問合せ大学」に電話で状況を伝えれば、追試験の手続きができる。受け付けは12日に始まる。
国際医療福祉大の和田耕治教授(公衆衛生学)は「高校生は、周囲の人が感染したという話をあまり聞かないかもしれないが、20代と同様に感染のリスクは高いと思って対策を強化してほしい」と注意を促す。その上で、通学や試験会場より、普段の生活での注意が重要と説く。「友人と話す時もマスクをし、試験の2週間ほど前からは、誰かと食事をするのは避けてもらいたい」
受験生がいる家庭では、家にウイルスを持ち込まないことが大前提とし、家族も外での飲み会はもちろん、複数で昼食に行くのも控えるべきだという。
今後の気がかりは個別試験の動向だ。全都道府県に試験会場を用意する共通テストと異なり、個別試験は原則、各大学で実施される。受験生の長距離移動による感染リスクを考え、延期や中止の判断をする大学がでる可能性がある。
これに対し、萩生田光一文部科学相は5日の臨時会見で「時間に余裕をもち、混雑のない時間を選んで移動するのが望ましい。受験生の機会を奪うことなく、実施にむけて社会全体で支えていきたい」と述べ、各大学に個別試験の実施を求める考えを示した。(阿部朋美、土屋亮)
大学入試の流れ
1月16、17日 大学入学共通テスト第1日程
30、31日 共通テスト第2日程(第1日程の追試験も兼ねる)
2月上中旬 主な私立大の個別試験
13、14日 共通テスト第2日程の特例追試験
25日以降 国公立大の個別試験の前期日程
3月12日以降 国公立大の個別試験の後期日程
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル