新型コロナ禍で在日コリアンの女性が直面する「生きづらさ」を明らかにしようと、大阪の市民グループが調査に乗り出した。コロナが女性により大きな打撃を与えていることが国際的な課題となる中、マイノリティーに属する女性の暮らしがどう変化したのかを可視化するのが狙いだ。
調査しているのは在日3世で関西大非常勤講師、李月順(リウォルスン)さん(66)=大阪市=が代表を務めるグループ「アプロ(韓国語で「前へ」の意味)女性ネット」。関西在住の在野研究者や人権問題に携わる市民運動家ら女性11人で構成。対象は20歳以上で、約1200人分の調査票を知人やNGOを通じて全国に配った。
国連の女子差別撤廃委員会は、社会的差別を受けやすいマイノリティーに属する女性が二重に差別を受ける「複合差別」に着目。日本政府に対しては2003年以降、在日女性らの現状を包括的に調査することを繰り返し求めている。しかし政府は「国勢調査でデータが取れる」として応じていないため、今回の李さんたちの調査は、国に取り組みを促す目的もある。3回目となる今回は市民ファンド「ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)」(東京都)の助成を受けた。
16年の前回調査では888人分の回答が集まり、在日への差別をあおるヘイトスピーチについて「見たり聞いたりした」と回答した人が8割に上った。自らのルーツを示す民族名を名乗る時に「相手の態度が変わることがある」という質問には、「そう思う」「少しそう思う」という回答が4割を占めた。
今回の調査は「子育て」「介護」「コロナと仕事」を柱に60項目を用意。新型コロナによって暮らしや仕事、収入がどう変化したかに加え、在日女性の負担が特に大きい祭事(チェサ)といった伝統的な家庭行事への影響や、在日女性ゆえに直面する影響、必要としている支援などについて質問する。
仕事や留学を機に来日して定住する「ニューカマー」の女性への調査も3月からSNSを通じて行う。
李さんは「実態を示す行政の資料がない中、自力の調査によって議論のたたき台を作りたい」と話す。
日本で暮らす韓国・朝鮮籍の人は、昨年6月現在で約46万3千人だが、調査は在日コリアンの日本国籍取得が進んでいることを踏まえて朝鮮半島にルーツを持つ日本国籍者も含める。
調査結果は今年末に報告書にまとめる。同委員会の次の日本審査に向けてアイヌ女性や被差別部落出身の女性らとつくるNGOグループが提出するリポートの材料にしてもらう。問い合わせはアプロ女性ネット(apeuro.inthefuture@gmail.com)へ。(武田肇)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル