名古屋の朝と言えば「モーニング」。コーヒーを頼めば、食パンがついてきます。そんな喫茶店の食パンの多くをつくっているメーカーがあります。かつては東海3県にある喫茶店の半数に届けていたという「本間製パン」です。筆者の母親は生粋の名古屋人で、よく本間製パンの名前を口にしていました。業務用が中心の会社で、大手パンメーカーのようにスーパーで見かけることはなかなかありません。なぜ、そんなパンメーカーが一市民にも浸透しているのでしょうか。その歴史と理由を追いました。
香りが少しでも違うと作り直し
「Pasco」ブランドの敷島製パンや、フジパンの本社が名古屋市にあるのに対し、本間製パンの本社と工場は愛知県小牧市にあります。パン工場からは焼きたてのパンのいい香りがしました。
このパンの香りが少しでも違うと作り直しを命じるほど職人気質だったというのが本間製パンの創業者・本間勝蔵さんです。
本間製パンの佐伯信哉営業部長によると、本間さんは東京の帝国ホテルで修業の後、名古屋観光ホテルでパンの責任者を担ったそうです。
そのような経歴から、食パンやロールパンといった食事に合うリッチなパンが得意だったといいます。
ホテルでの勤務の後、1957(昭和32)年に名古屋市西区南押切町で本間製パン有限会社を設立します。
開店直後の昭和30年代に喫茶店ブームに。発祥の地といわれる愛知県一宮市は繊維街で打ち合わせのために喫茶店を利用する人が多く、朝のサービスとしてモーニング文化が生まれ、東海地区で広がっていったのではないかと言われています。
そんな中で「本間製パンのパンはおいしい」という客の口コミが地域全体に広がり、多くの喫茶店が使い始めました。
「喫茶店のパンは本間製パン」
もう一つの理由は、パンを配送していた代理店の役目です。現在も喫茶店にパンを届けている代理店の人たちの「おいしい本間製パンのパンを喫茶店に運びたい」という強い思いがあったそうで、喫茶店に売り込んでくれました。今でも少数でも喫茶店に運んでいるといい、代理店の人たちの熱い思いは続いています。
2012年には東海3県の約1万3千店のうち、約6400店の喫茶店などに本間製パンは届けられていました。
現在はチェーンのカフェや喫茶店が増えたため、統計がないそうですが、4千店近く1万本前後の食パンが届けられているそうです。
喫茶店の店主やお客さんのコミュニケーションで「喫茶店のパンは本間製パン」といったイメージがつき、佐伯部長は「この地方の人の脳内シェアは今でも高いのではないか」と話します。
本社工場の堀場英仁副工場長に工場を案内してもらいました。
大きな装置がたくさんある中で、気になったのは、多くの人の目と人の手を通って、パンが完成しているということです。
1本の食パンが完成するまでに10人が関わり、天候などに合わせて材料の分量も変えているといいます。
飽きが来ない、毎日食べるパンだからこそのこだわりを見ました。
食パンだけではなく、実は中部国際空港発の機内食のパンを作ってもいるそうで、パン工場の中では様々な作業をしている人たちがいました。
日々飽きないパンを作るだけでなく、今はやりの高級食パンの販売や、愛知県内の業務用パンメーカーと組んで喫茶店を支援するためのクラウドファンディングなど、新たな領域にも挑戦しています。(小原智恵)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル