みかん、犬猫病院、太陽光発電……。名古屋市内を歩いていると、商品や企業の名前を記した歩道橋をよく目にする。名古屋市が、歩道橋に愛称をつける命名権(ネーミングライツ)を売る事業を始めて10年。今や100超と、全国の主要都市の中では最多を誇るまでに。その背景は――。
公共施設に、企業が愛称などをつけられる命名権を売る事業は2000年ごろから各地の自治体で広がった。名古屋市は10年11月から歩道橋で公募を開始。歩道橋の命名権は大阪府に次いで2番目に早かった。
契約の条件は「1カ月あたり2万5千円以上、期間は3年以上」。社員らによる周辺の掃除といった地域貢献活動も義務づけられる。交通標識などと混同しないよう、メッセージや矢印は使えず、ロゴでも色は1色のみ、面積は10平方メートル以内と、同市独自の制限も設けられている。
それでも契約件数は右肩上がり。実際に契約を始めた11年度が20件で、19年度(20年3月末現在)には104橋に増えた。市が設置する歩道橋のうち、社名や愛称を掲げているものは約半分を占め、年間収入は計3200万円になった。
なぜ歩道橋の命名権が人気なのか、名古屋ならではの理由があるようです。最も愛称が長い歩道橋は30文字。記事後半でご紹介します。
業種別では医療・福祉法人や建設業が多く、車の販売店、司法書士の事務所、葬儀社などと多岐にわたっている。1社で5橋と契約している企業もあれば、1橋で年55万円という最高額を払っている企業もある。区別では、中村区と千種区が多い。
名古屋市道路利活用課の調べによると、歩道橋の命名権事業に取り組んでいる横浜市や福岡市など10政令指定市と大阪府など4府県の中で、2番目に多いのは大阪市の44橋。104橋もある名古屋市は突出する。
同課の担当者は「他の都市に比べると名古屋は車社会。車内から目につきやすく、PR効果が高いと認知されているからではないか」と推測する。
昨年12月から契約している同市南区の「東海重工」の歩道橋は、企業名だけでなく、業務内容の「一般産業機械製造・機械器具設置」も加えた。河野弘社長(69)は「近所の方が『歩道橋を見たよ』と言ってくれて評判はいい。何をしている会社なのかを知ってもらえるいい機会になっている」と話す。
「河合塾 千種ビクトリーブリッジ」(同市千種区)の愛称で契約している河合塾(同)の広報担当者は「ビクトリーとは勝利、合格。話題性もあり、契約から10年になるが今後も続ける予定」と言う。
同市東区の古出来歩道橋は、愛称「ごまたまご歩道橋」の方が有名だ。10年前から契約している中部飼料(同市中区)は「本社からは離れていますが交通量が多く四方から見やすいのが決め手になりました。商談の際の話のネタにもなっています」と説明する。
ただ、20年度の契約件数は減少に転じた。昨今の景気の悪化もあって経営状況などを理由に契約を打ち切る企業もあり、今年4月には98に減る見込みだ。
名古屋市は、色を複数色に増やせるようにするなど対策を検討している。大阪市などでは複数色を使えるためだ。同課の担当者は「PRにとどまらず、企業が地域とつながりを持つきっかけになれるという利点も含め、アピールに力を入れたい」と話している。(臼井昭仁)
◇区別の契約歩道橋の数(多い順)=3月末時点
①中村区(13)②千種区(12)③東区、中区(各11)⑤西区、南区(各8)。最少は名東区と天白区(各1)
◇最も長い 30文字
まつかげシニアホスピタル・認知症疾患医療センター四女子歩道橋(中川区)
◇最も短い 8文字
ごまたまご歩道橋(東区)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル