新型コロナウイルスの感染拡大で生活に困窮する人が増えるなか、生活保護を申請する際に福祉事務所が親族に対して援助できないか問い合わせる「扶養照会」が申請のハードルになっているとの指摘がある。「家族に知られたくない」と扶養照会を理由にためらう人もおり、支援団体は「制度そのものを見直す必要がある」と訴える。
生活状況、知られたくなかった
日雇い労働者の街として知られる大阪市西成区の「あいりん地区」。生活保護の平均受給世帯率が23%(2019年度)と市全体の4倍以上を記録する西成区の中でも突出してその割合が高い地域とされる。ここに流れ着いた東海地方出身の40代の男性は昨年6月に生活保護の申請を決意したが、二の足を踏ませたのが扶養照会の存在だった。
「連絡を絶っている家族に自分の生活状況を知られたくなかった」
高校卒業後、東京都内でエンジニアとして働いたが、人間関係に悩み職場を転々とした。うつ病で定職に就くことも難しく、日雇い仕事を探してあいりん地区へ。住み込みの清掃の仕事に就いたが、うつ病の症状が悪化して辞めた。住む場所と仕事を失い、生活保護に頼ることにした。
支援団体の紹介で生野区内のアパートに住み、同区の福祉事務所の窓口で職員から「家族がいるのなら扶養照会をさせてもらう」と言われ、迷った。
母は亡くなり、年老いた父は実家で細々と年金生活を送る。弟は結婚して家庭を持つ。東京で働いていたはずの自分は大阪に流れ着き困窮している。子どもの頃、親戚の扶養照会を受けた両親が煩わしそうにしていた記憶がよみがえった。
背に腹は代えられないと応じ、父親と弟に生野区から照会があった。弟から反応はなかったが、父親からは手紙が届いた。警察に行方不明者届を出していたことなどが記され、結びに「生きていればいい」とあったが、援助は断られた。
男性は「お金の面で家族に迷惑をかけたくないし、結びつきの薄い家族に自分の困窮ぶりを知られるのもつらい。扶養照会はしてほしくなかった」と話した。
照会しても親族扶養の実現わずか
扶養照会を巡っては今年2月、厚生労働省が運用を見直す通知を各自治体に出した。照会不要のケースを20年間の音信不通から「10年程度」にするなど限定的な運用となる。だが、そもそも親族の支援が得られるケースはまれで、制度自体の是非が議論されてきた。
民法では、親子や祖父母、兄弟姉妹といった血縁関係があれば互いに扶養する義務があると定められ、生活保護支給の可否を決定する際に扶養照会をかける根拠の一つとされる。
だが、厚生労働省の2017年の調査では、扶養照会をした約3・8万件のうち、親族からの扶養に結びついたのは約600件と2%にも満たない。生活保護業務に携わった元地方公務員の男性によると、扶養照会には「期待薄」の空気が現場には根強いという。「家族に知られるのは嫌だろうと思ってはいたが、事務的に照会をかけていた」と明かす。
厚労省の今回の通知では、申請者の親族が家庭内暴力(DV)の加害者の場合は照会を控えるよう自治体に求めている。
照会受け精神的苦痛受ける人も
一方で、大阪府高石市の女性は…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル