「トーゴの選手は無事、来られるのかな」
今年3月に宮崎大を卒業した柳田竜也さん(22)は、宮崎県日向市でホストタウンのイベント運営に関わった3年間に思いをはせた。
新型コロナの影響で、各地のホストタウンで事前合宿の中止などが発表されている。日向市では4月以降、複数の飲食店でクラスター(感染者集団)が発生。25日の聖火リレーは関係者のみで縮小して行うことになった。
日向市が西アフリカのトーゴ共和国のホストタウンになったのは2018年。市内の東郷町地区と語感が似ていたことがきっかけだ。柳田さんは、ゼミの金岡保之教授(60)が日本トーゴ友好協会長を務める縁で、携わるようになった。
19年3月、トーゴから東京五輪をめざす女子マラソン選手らが来日。同市に5日間滞在する間、柳田さんは英語での通訳や動画撮影を担った。一行が街を歩くと、地元の人たちは興味津々。通りすがりのおばあちゃんが「どっから来たんね」と声をかけ、肩を組んで写真を撮った。夏にはダンサーらが訪れ、打楽器「ジャンベ」のリズムに合わせて同市の伝統芸能「ひょっとこ踊り」などを一緒に踊った。柳田さんは「言葉を越え、トーゴと東郷で意気投合しました」と笑う。
コロナ下でも関係は発展し続けた。市とトーゴ大使館、日本トーゴ友好協会は20年9月、相互協力協定を結び、トーゴの井戸修復やトイレ建設、本の寄贈プロジェクトが動き出した。
「なぜこんなにムーブメントが広がったんだろう」と疑問だった。ホストタウンを仲介した内閣官房の元職員から「ホストタウンから国際協力に至ったケースはまれ」と聞いた。卒業論文のテーマに据えた。
関係者らへのインタビューを進めるうちに、協定の締結を提案した市職員の言葉が、胸にストンと落ちた。「交流するうちに親近感が湧き、トーゴのために何かしたいという気持ちになった」。
金岡教授からは「協会やNPO、自治体など様々な主体が協働できたことが大きい」と聞いた。論文には、願いも込めてこうつづった。「東京大会を機に、多くの開発途上の参加国と自治体が交流し、国際協力につなげる視点が重要だ」
五輪招致が決まった13年、柳田さんは中学3年生だった。「観戦できるかなって、なんとなく気分が上がった覚えがある。まさかホストタウンという形で関われるなんて、想像もしなかった」という。
トーゴの井戸修復事業に関わった経験から、柳田さんは「当たり前の生活を支えたい」と今年4月、電力会社に就職した。大分県別府市の実家でリモート研修を受ける日々を送る。大会中はテレビで観戦する予定。「トーゴの選手をひいき目に応援します」
ホストタウンは3月末現在、全国に453件ある。東京都は、大使館がある港区がジンバブエを、目黒区がケニアを登録するなど、29の市区が30の国や地域を受け入れる予定だ。(河崎優子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル