心理学の分野で、気候変動に対して苦痛を感じているという認識が高まっている。米イエール大学の調査によると、米国人の40%以上が気候変動に対して「嫌悪感」や「無力感」を感じているという。また、2020年に米国精神医学会が行った世論調査によると、回答者の半数以上が、気候変動が自分の精神状態に及ぼす影響について、「やや不安」または「非常に不安」と答えた。精神疾患の分類や治療に用いられる診断マニュアルには正式に分類されていないが、学術論文やメディアでは、「エコ不安症」と呼ばれている。
地球が溶け、6回目の大量絶滅の危機に直面し、人間が引き起こしたことに不安を覚えるのは当然のことだ。しかし、個人では、生物圏の破壊を止めることができないと感じてしまいがちだ。
気候変動をコントロールできないのであれば、どうやって自分の絶望に立ち向かえばいいのだろうか?
米ワシントン州のセラピスト、レスリー・ダベンポート氏は「エコ不安症は、脅威に対する自然な反応だ。そしてこれは非常に現実的な脅威だ」と言う。しかし、それが原因で衰弱してしまうこともある。どのような場合にエコ不安が不健康になるのか、明確な標準的定義はない。
明確なガイドラインがないため、多くのセラピストが相談者の不安を病的に捉えたり、不健康な反応として扱ったりしている。また、どのように接したらよいかわからないというセラピストもいる。
16年の調査では、5人に1人近くのセラピストが、相談者の反応が不適切だと回答。気候変動に関する相談者の信念が「妄想」や「誇張」であると答える人もいた。ダベンポート氏は、セラピストが相談者の苦悩をそのようなものとして片付けてしまうと、大きなダメージを与えるという。
セラピストが相談者のエコ不安症を否定するのは、必ずしも気候危機への共感や関心がないからではない、と専門家は言う。多くの場合、セラピスト自身が環境破壊に対する自分の感情に対処できず、ましてや相談者の感情にも対処できないために起こる反応だ。
英バースの気候心理セラピスト、ツリー・ストーントン氏は、気候変動に対するセラピスト自身の感情の整理ができていないと、悲しみや不安を抱えた相談者の感情をさらに悪化させてしまう可能性があると言う。
気候変動は、私たちが今生きている現実だ。そして、これらの影響がメンタルヘルスに直接影響を与えているケースもある。研究者たちは、四つのハリケーンを経験した子どもたち1700人以上を追跡調査した。その結果、子どもたちの半数が心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を経験し、10%の子どもたちは、症状が慢性化した。
魔法のように明日すべての炭素汚染を止めたとしても、数十年分は温暖化が続くことになる。つまり、精神的な影響は将来的に悪化する可能性がある。社会は、安定しない地球での生活に伴う悲しみや不安にどう対処するかを含め、さまざまな変化に適応していかなければならない。
気候変動による精神的な影響が手に負えなくなったとき、相談者がどのように対処するかは、セラピストによって異なる。マインドフルネスに基づくアプローチは、気候変動の不安や悲しみに伴う激しい感情に対処するのに役立つ。
例えば、ダベンポート氏は、相談者が平和な環境にいる自分を想像する誘導瞑想(めいそう)を行ったり、気候変動について考えているときに自分の体が経験する特定の感覚に耳を傾けさせたりすることがある。
認知行動療法は、不健康な考え方に対処することに焦点を当て、気候変動についての苦しい考えにまひしている相談者を助けることができる。また、気候変動に詳しいセラピストは、エコ不安症や悲しみに伴う無力感に対処する方法として、市民運動や自然の中で過ごすことを勧める。
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地球温暖化の危機に直面した今こそ、メディアも変わらなければ――。そんな問題意識から朝日新聞社も参加している気候変動の報道強化の国際キャンペーン「Covering Climate Now」では今年も、4月22日のアースデーを中心に、多数の記事が発表されました。海外の記事の一部を抄訳でご紹介します。(ギズモード「Earther」)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル