3月に福島県で始まった東京五輪の聖火リレーも残り10都道県。全国をつなぐはずが、新型コロナウイルスの感染拡大により各地で公道リレーが中止となり、トラブルも相次いだ。大会への逆風で機運が上向かないまま、聖火は16日から、東日本大震災の被災地に再び戻る。(斉藤佑介、吉備彩日)
11日午前、青森県十和田市の聖火リレーの出発地点にはたくさんの観客が集まっていた。初日の公道リレーが中止となって迎えた2日目。応援に駆けつけた市内の玉山英子さん(69)は前回の五輪の聖火リレーも沿道で応援したといい、「人生で2度も見られるなんて」と感激していた。ただ、観客が密集する場面もあり、大会関係者が「声を出さずに応援してください」と呼びかけていた。
コロナ下で始まった聖火の公道リレーは、これまでに青森を含む13府県で中止か一部中止となり、無観客の公園を走ったりトーチキスでつないだりした。今後も北海道や千葉、神奈川が中止を表明している。
トラブルも相次いだ。福島では、大音量で音楽を流して先導するスポンサー車両に批判が起きて音量を下げることに。佐賀ではコロナへの感染が確認された運営スタッフが、同僚8人と飲食していたことも判明した。大会組織委員会の幹部は「リレーの中止は仕方がないが、トラブルばかり注目され、機運が上がらない」とため息をつく。
聖火リレーはスポンサー4社の協賛金をもとに運営されている。著名人ランナーもあわせ約1万人が名所旧跡や観光地を走るはずだった。東京都立大の舛本直文客員教授は「芸能人も次々と辞退し、人と金をかけて経済効果や観光立国としての日本を発信しようとした政府や組織委のもくろみは外れた。『平和』のメッセージを伝えるという聖火リレーの本来の意義に立ち返る時だ」と話す。
一番の問題は「何のための聖火リレーかが伝わっていないこと」と言う。ギリシャでの採火式で、巫女(みこ)が祈りを捧げる言葉は「平和のメッセージを世界に伝えよ」。コロナ禍の苦境にあえぐ人に希望を照らす平和、多様性と調和、震災復興、ランナーそれぞれの思い……。「普遍的なメッセージを伝える役割があるのに、組織委もその目的を理解しないまま出発した」
五輪はいま、開催の是非も問われている。舛本客員教授は、「行き過ぎた商業化、大会の肥大化、国威発揚など問題はある一方、世界平和の構築への寄与という『オリンピズム』が目指す究極的な目的への理解も国民は積み重ねてきた」と話す。こんな時だからこそ、特に若い人には率先して議論に加わって欲しいと言う。「開催の是非で割れているからといってタブー視するのでなく、聖火リレーとは何か、五輪とは何かなど、光と影を見つめる機会にしてほしい」
ペットボトルで練習 走者の経験「人生の糧に」
組織委によると、これまでに約6700人(10日時点)がランナーを務めた。この経験を人生の糧にしようとする人もいる。
「ここまで回復して元気だよ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル