昨年9月、大阪府高石市で戸籍がない高齢女性が餓死し、同居の息子が保護された。高石市は「過去に母子と接触したことはなかった」としていたが、取材を進めるうち、5年前に市職員が母親と会っていた可能性が浮上した。確かに生きていた母子の存在がなぜ、公には「いないもの」とされ続けてきたのか。
分け合った最後のソーメン
女性の遺体は昨年9月22日朝に見つかった。司法解剖で、栄養不足による餓死と判明した。家にいた息子も衰弱しており、府警に保護された。
母子ともに戸籍がなかった。
息子を支援してきた関係者によると、息子は保護された際、「8月末に知人がくれたソーメンを母と分け合ってからは、水と塩でつないでいた。無戸籍なので、役所に相談しづらかった」と話したという。
女性はかつて、内縁の夫で息子の実父にあたる世帯主の男性を加えた3人で暮らしていた。男性は2016年8月に74歳で病死した。母子は男性が残した約300万円を切り崩して生活していたという。
息子は自称1971年生まれの50歳。「学校に通わず、母から読み書きを教わった。大人になると仕事を転々とし、最近は無職だった」と説明した。「母は1941年生まれの78歳だった。長崎県・五島列島出身で、戦争孤児だったと聞いた」とも。
女性の死が最初に報じられたのは昨年12月だった。当時、記者が取材した高石市幹部は「市が過去に母子から相談を受けたことはなく、困っていたことを知ることは難しかった」と話した。
書き直された申請書
女性が無戸籍だった理由は定かではない。
知人らによると、女性は若い頃、東海地方で働いていた。そこで内縁の夫と出会い、高石市に移った。息子が生まれた時も父母は出生届を出さなかった。
一方、内縁の夫は戸籍を持っており、高石市への住民登録もしていた。
取材を進めると、内縁の夫が亡くなった直後、高石市役所に死亡届が出されていたことがわかった。
餓死した無戸籍の女性。市役所との間にあったとみられる唯一の「接点」を生かすことはできなかったのか。記者たちが追いかけました。
いったい、誰が死亡届を出し…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル