国際平和シンポジウム「核兵器廃絶への道~『希望の条約』が照らす新しい世界~」(広島市、広島平和文化センター、朝日新聞社主催)が31日、広島市の広島国際会議場で開かれた。
第1部の討論に参加した中満泉・国連事務次長は、核兵器禁止条約の発効に伴い、来年1月にも開かれる締約国会議について、「(条約に未署名の)日本がオブザーバー参加すれば、条約の理念そのものは共有していると発信する機会になる」と述べ、前向きな検討を呼びかけた。
核兵器禁止条約は50カ国以上の批准を経て、今年1月に発効した。ただ、核兵器保有国や、米国の「核の傘」の下にある日本などは署名していない。
中満さんは討論前の基調講演で「日本の被爆者が条約成立に非常に重要な役割を果たした」と称賛した。条約をめぐる各国の対立を踏まえ、「条約に批判的な国も、現実に発効した核軍縮の枠組みの一つとして取り扱うよう求める」とし、「核兵器のない世界という共通の目標を達成するため、あらゆる努力がなされることを望む」と述べた。
討論にはほかに、米オバマ政権で軍備管理を担当したローズ・ゴットメラー元国務次官がオンラインで参加。フォトジャーナリストの安田菜津紀さん、中西寛・京都大教授を交え、条約発効後の核軍縮の方向性について意見を交わした。
第2部特別トークでは、1954年の太平洋ビキニ環礁での米国の水爆実験から着想された映画「ゴジラ」に主演した俳優の宝田明さん(87)が、大学生2人と対談した。
宝田さんは旧満州で迎えた終戦後、ソ連兵に銃撃された体験を振り返り、「私も肉体的に苦しみを受けた一人。そのことを思い出しながら、外部のプレッシャーに負けず発言していきたい」と話した。
シンポは27回目。新型コロナウイルスの影響で、昨年に続いて参加者を募らず、インターネットでライブ中継した。
◆6日付朝刊で詳報します。朝日新聞デジタルの特集「核といのちを考える」(https://www.asahi.com/special/nuclear_peace/)で録画をご覧になれます。
核兵器禁止条約「希望の光」 国連事務次長の中満泉さん
シンポジウム冒頭では国連事務次長・軍縮担当上級代表の中満泉さんが「核兵器禁止条約は世界をどう変えるか」と題して基調講演した。主な内容は以下の通り。
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核兵器の完全廃絶は、1946年に最初の総会決議が採択されて以来、軍縮における国連の最優先事項であり、それは今日も変わっていない。近年、国際安全保障環境の悪化により、核軍縮の努力がますます緊急に必要であることは明確だ。核のリスクはここ40年で最高レベルにある。
しかし、いくつかの希望の光もある。その一つは、軍備管理に関する米国・ロシア間の新たな取り組みだ。今年2月に新戦略兵器削減条約(新START)が5年延長され、6月のプーチン・ロシア大統領とバイデン米大統領の首脳会談では、「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」という(1985年の米ソ首脳会談での)レーガン・ゴルバチョフの声明が再確認された。
多国間軍縮の分野では、核兵器禁止条約の発効が今年の最も重要な出来事だ。条約には、核兵器に関連するあらゆる活動への参加に対する包括的な禁止事項が含まれている。また、犠牲者に対する支援と、環境修復に関連する義務も含まれている。人道的原則に基づいて成立したいくつかの他の軍縮条約にも存在するこのような規定は、核兵器の分野では新しいものだ。この内容の形成には被爆者の方々が大きく貢献した。
発効によって核兵器禁止条約は、多国間、複数国間、二国間の軍縮・不拡散条約や協定、合意を含む幅広い枠組みの一部となった。いくつかの異なる条約や合意と核兵器禁止条約とが補完し合う関係となり、それによって枠組み全体が強化されていくことは、核軍縮を前に進めていくために極めて重要だ。
変容した地政学的情勢を考慮した軍縮と軍備管理の新しいビジョンを求めることを、既存の条約を捨て去って新しいグローバルな体制を一から作る呼びかけ、と誤解してはならない。むしろ、既存の条約を強化して、その上に積み上げていくものであり、多国間軍縮機構を再活性化し、強化する方法についても真剣に考えるべきだ。
核兵器禁止条約を支持するかどうかにかかわらず、「核兵器のない世界」という私たちの共通の目標を達成するための前向きな力となるよう、あらゆる努力がなされることを望む。
この条約が成功するかどうかは、究極的には条約がどう運用されていくか、そして条約支持国が核兵器保有国を含め、条約反対国とどうかかわっていくかによって決まる。核兵器の完全廃絶という国連の軍縮における最優先事項を達成するために、私たちは一層の努力をしなければならない。
米中ロ「核戦争防ぐパートナーに」 元米国務次官のローズ・ゴットメラーさん
元米国務次官のローズ・ゴッドメラーさんがパネル討論の冒頭発言で述べた要旨は以下の通り。
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被爆70年だった2015年、広島と長崎を訪れた。広島では、被爆者の記憶を後世に伝える若者たちに出会った。長崎では、街を一望できる丘の上から、被爆者の証言をその風景に重ねた。「空は真っ黒で地面は真っ赤で、その間を黄色がかった雲が覆っていた。この3色が、逃げ惑う人々に不気味に迫った。あの火の海、あの煙の空……」。核兵器が戦争の道具として二度と使われないことを確実にするためにも、今日のような議論の場は重要だ。
核兵器廃絶への道のりは長い。しかし、米ソが核戦争の瀬戸際まで行った1962年のキューバ危機で、あの恐ろしさを体験して以降、両国は核兵器を管理して削減するために交渉のテーブルに着いてきた。
94年に戦略兵器削減条約(START)が発効した時、米ロはそれぞれ約1万2千発の核弾頭を配備していたが、それを各6千まで半減させた。新STARTではそれを1550まで減らした。そして今、バイデン政権はロシアと戦略的安定対話を再開した。新しい技術の影響に焦点を当て、新STARTに代わる条約づくりをめざしている。
核弾頭数は冷戦時代に比べて着実に減っている。だが、これらの成果をつぶす恐れのある新たな軍拡競争が起きようとしている。中国が核戦力の増強を図っている証拠が出てきた。
核リスクを低減させる米ロの共同作業に、中国を招き入れる努力が必要だ。中国とも戦略的安定を話し合い、情報交換を習慣化する。ロシアと協力してそれを進めることができる。米中ロ3カ国は友達ではなくても、核戦争や混乱を防ぐためのパートナーにはなれるはずだ。
■「ゴジラもヒバクシャ。その…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル