東京パラリンピックに出場した車いす陸上の鉄人、伊藤智也選手(58)=三重県鈴鹿市=には、長年支えてくれている同郷の親友がいる。競技開始時から背中を押し、声援を送り続ける。2人は「一本の黒帯」でつながっていた。
約25年前、鈴鹿市の小学校長、堀之内宏行さん(57)が伊藤選手の長女の担任になったのが最初の縁だ。その数年後、市内の病院で再会した。伊藤選手は中枢神経の異変で運動障害などが起きる「多発性硬化症」という難病で入院していた。「このまま死ねるか」と明るく振る舞っていたが、容体が急変する不安と闘っていた。
伊藤選手はこのころ車いすマラソンと出会い、大会に出るようになった。後押ししようと堀之内さんが手渡したのが黒帯だった。学生時代、空手の全国大会で優勝した時のもの。「日本一や世界を目指して、頑張れ」という思いを込めた。
2003年10月、伊藤選手は世界選手権の400メートル、1500メートル、マラソンで優勝した。車いすには黒帯がくくりつけられていた。「邪魔やろうに、と思いつつもうれしかった」と堀之内さんは振り返る。大会後、黒帯は堀之内さんに返された。「堀之内」と刺繡(ししゅう)された反対側に「伊藤」と刺繡されていた。
「ビリでゴールしたる」
伊藤選手は、04年アテネ大…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル