37歳の誕生日の翌日だった。神奈川県庁の総務局財政課の男性職員が、横浜市中区の県庁近くの公園内で自ら命を絶った。2016年11月14日のことだ。
その4日前、男性は産業医による過重労働面接を受けていた。県庁では時間外・休日労働時間が月80時間を超えた職員全員に、健康上のリスクが高まったとしてこの面接を受けさせている。男性は、9月の時間外労働時間が87時間を記録し、対象者になった。
当時、男性の母親は、面接にすがる思いだった。男性の死後、面接した医師が男性の所属長である財政課長宛てに書いた報告書などを手に入れた。男性の疲労の蓄積状況は、4段階評価で下から2番目の「軽」。就業は「普通勤務」が可能とし、労働時間の短縮は「特に指示なし」としていた。うつ状態などは「なし」で、男性への指導内容として「(休日出勤時は業務を)夜間までやらない」「(趣味のジョギングを)短時間でも良いからやろう」などと書かれていた。
母親は、今も無念な思いをぬぐえずにいる。「何か対応してくれると思っていたのに。診断の結果があまりに低い」
保健師は「業務続けられるか疑問」
実際、面接に同席した保健師が作成した文書は印象が異なる。それによると、男性は面接で「(16年)10月中旬から睡眠薬を飲み始めた。中途覚醒(かくせい)あり。薬はあまり効いているように思えない。仕事の効率が落ちている」と告白。その様子を「落ち着かない感じ。産業医の話を聞くのもやや苦痛な(イライラした)表情。服用中の薬の名前や所属(する財政課)での配慮の内容などを聞かれても、曖昧(あいまい)な答えしか返ってこない」と記し、「話の内容が深まらないまま面接時間が40分を超過し、終了とした」「このままの状況で業務が継続できる状態かどうか疑問が残る」と懸念。11月16日に県庁でメンタルヘルスを担当する精神科医に相談し、男性にメールで「12月9日に精神科医との面談を設定した」と伝えたと記している。だが、すでに手遅れだった。
自死は19年4月、公務災害に認定された。認定の中で、男性は16年9月末ごろにうつ病を発症したとされた。男性が財政課に異動したのは同年4月。県庁で最も忙しい部署の一つで、母親によると、異動後の3~4カ月で休みがとれたのは2、3日。疲労からか7月には起床できないほどの背中の痛みを訴え、8月には出勤時にふらつくようになった。9月に入ると「周囲に迷惑をかけて申し訳ない」と自らを責めるようになり、出勤時には苦しそうに左胸をさすっていた。入院を勧めても「体が悪いわけではない」と聞かなかった。
職場も気づいていた
9月22日、帰宅した男性が「自分に何かあったら職場に連絡してほしい」と電話番号を伝えてきた。顔はげっそりとやつれていた。母親は散々迷った末に翌日、昼休みの時間に財政課に連絡した。「午後に休みを取って帰るよう伝えてほしい。心配なことがある」と。
母親から連絡を受けた職場も、男性の異変には気付いていました。それなのになぜ、自死を防げなかったのか。記事の後半では、「隠蔽」と批判される県の対応や、県のパワハラ調査の経緯などを詳報します。
財政課も8月ごろから、男性…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル