大阪市北区の雑居ビル内のクリニックで17日に起きた放火殺人事件で、住所、職業不詳の谷本盛雄容疑者(61)が事件の約3週間前にガソリンを購入する際、「バイクに使う」などと申告していたことが捜査関係者への取材でわかった。バイクを所有していた形跡はなく、大阪府警は虚偽の説明でガソリンを入手したとみている。
捜査1課によると、谷本容疑者は17日午前10時15分ごろ、ビル4階にあるクリニックに侵入し、紙袋からガソリンとみられる液体を流出させ、ライターで火をつけた疑いがある。
同課によると、谷本容疑者は事件当時、大阪市西淀川区の住宅に滞在。住宅近くのガソリンスタンドで11月下旬、ガソリン約10リットルを購入していた。
捜査関係者によると、谷本容疑者は購入の際、ガソリンの使用目的について「バイクに使う」「トーチランプに入れる」と店側に伝えていた。府警が店に残った記録から確認したという。トーチランプは携帯用の小型バーナー。
京都市伏見区で2019年、36人が亡くなった「京都アニメーション」放火殺人事件を受け、ガソリンスタンドなどがガソリンを携行缶などに詰めて販売する場合、店側は本人確認や使用目的を確認することが義務づけられた。谷本容疑者は店に身分証を提示していたという。
府警は、谷本容疑者がビル火災の当日、西淀川区の住宅から約3・5キロ離れたビルまでガソリンを自転車に積んで運んだとみている。ガソリン入り容器を紙袋に入れていたとみられる。ビル周辺やクリニック内の防犯カメラ映像には、谷本容疑者とみられる男が大きめの紙袋二つを持ってクリニックに入る姿が映っていた。
捜査関係者によると、府警はビル火災後に西淀川区の住宅を家宅捜索し、液体の入った容量約2リットルの容器を発見、押収した。関係者によると、液体は臭いや色からガソリンとみられる。府警は購入したガソリン約10リットルを分け、一部を放火現場に自転車で運んだとみている。
この住宅の捜索では、京アニ事件から2年になることに関する今年7月の新聞記事が見つかった。住宅は谷本容疑者の所有だが、直近でこの住宅で生活していたのは1カ月程度といい、記事は持ち込んだ可能性がある。府警は谷本容疑者が京アニ事件に強い関心を持ち、手口を模倣した恐れがあるとみている。
京アニ事件では、らせん階段付近にガソリンがまかれ、一気に激しく燃える「爆燃現象」が発生。36人が死亡、32人が重軽傷を負った。大阪のビル火災では、4階にいた27人が心肺停止状態で搬送された。谷本容疑者は一酸化炭素(CO)中毒などで重篤な状態という。
板挟みのGS「なんで売れないんや」とトラブルも
2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件の後に省令が改正され、ガソリンスタンド(GS)の従業員は、持ち帰りでの購入客には使用目的を確認し、氏名や住所、販売日時、販売量を記録することが義務付けられた。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル