話し言葉に方言があるように、漢字にも地域独特の「方言漢字」がある。「八潮の地名から学ぶ会」事務局長の昼間良次さん(47)は、八潮市の「垳(がけ)」や日高市の「嘶(いななき)」など、埼玉県は方言漢字の宝庫だと唱える。そもそも県名の「埼」の字も全国的には珍しい。土地の歴史と結びついた方言漢字について聞いた。
――漢字に地域性があるなんて普段は意識しませんでした
「埼」の字を使う機会は「埼玉」以外あまりないでしょう。「埼」を含む地名は少なく、市町村では佐賀県神埼(かんざき)市のみ。町域では埼玉のルーツとなった行田市埼玉(さきたま)、銚子市犬吠埼(いぬぼうざき)など数えるほどしかなく、「さい」と読むのは埼玉県だけです。
――歴史は古いのですか
平安時代初期の797年に編纂(へんさん)された歴史書「続日本紀」に「武蔵国埼玉郡」の表記があり、都道府県名ではこれより前の史料で確認できるのは、群馬や千葉など5県だけです。平安時代中期の文書では「埼」の使用が広がり、例えば「宮埼郡」もありましたが、今は「崎」に置き換わって「宮崎」ですね。「埼」は長い歴史の中で生き残ってきた奇跡の漢字だと思います。
馬がいなないた場所を掘ったら
――埼玉県内は地域独自の地名が多いそうですね
例えば「はけ」と読む地名は所沢市と入間市の「岾」など各地にあります。川岸の斜面に結びつく漢字で、八潮市の「垳」も読みは「がけ」ですが、同じ由来です。川が多い埼玉らしい地名ですね。
日高市に残る「嘶」は、鎌倉街道の馬のつなぎ場になっていたという説のほかに、馬がいなないた場所を掘ったら肥沃(ひよく)な黒土が出てきたという伝承もあり、ロマンがあります。地名はその土地の記憶を表しているのです。
――そもそも方言漢字になぜ興味を持ったのでしょう
きっかけは2012年、八潮…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル