NMB48 12のスタディー! 加藤夕夏さん、川上千尋さん
活動12年目に入った大阪・難波を拠点とするアイドルグループ「NMB48」。そのメンバーにふだん考えていることや、アイドル活動の中での学びを聞く「NMB48 12のスタディー!」。今回は、活動10周年を迎えた3期生の加藤夕夏さん(24)と、今年10周年を迎える4期生の川上千尋さん(23)を招いた。「アイドルも、他の職業と同じように、キャリアの積み重ねや経験が正当に評価されると証明したい」と2人がいうわけは――
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ファン投票で決まる選抜メンバー…「ナンバトル2」への胸の内は
――昨日(3月9日)、川上さんを含むNMB48の「チームM」メンバーが出演していた「ナンバトル2公演~舞~」を見ました。
川上 ありがとうございます。どうでした?
――「カトレアの花を見る度に思い出す」という曲で、花がしおれていく動きを表現する振り付けがあったと思いますが、その動きの表現が秀逸でした。
川上 すごくピンポイントなご感想……。
加藤 細部は大事だよ。
「複雑だった」(川上さん) 「怖いと感じた」(加藤さん)
――NMB48は現在、「ナンバトル2」というイベントをしています。様々な指標で各チームや個人が競う趣向ですが、その中でもファン投票によって次作シングルCDの参加メンバーを決める試みが熱を帯びています。
加藤 上位14人が表題曲を歌う選抜メンバーとなり、24~15位の10人が「アンダーガールズ」としてカップリング曲に参加できる仕組みです。3月27日に最終結果発表が予定されています。わたしもどうなることやら……。
かわかみ・ちひろ 1998年、大阪府生まれ。2012年暮れに4期生としてNMB48での活動を開始。小1から8年間、フィギュアスケートに打ち込んだ。プロ野球好きで、阪神タイガースの熱狂的ファンでもある。甲子園グルメ大使。愛称ちっひー。
――ファン投票によって選抜メンバーを決めるのはNMBでは初めての試みですね。
川上 正直、複雑でした。ファン投票の企画じたいは、これまでにもカップリング曲を歌う「難波鉄砲隊其之九」のメンバー決めなどで経験があるのですが、気持ちの面で楽ではなかった。「またか……」と思いました。
ファンの人たちに負担をかけてしまうのではないかという気持ち。でも、やるからには絶対に選抜上位に食い込みたいという野望。今も二つの気持ちが一緒にあります。
加藤 昨年、「ナンバトル」の第1弾があり、くじ引きで再編成された少人数のユニットどうしでパフォーマンス力を競い合う構図が導入されてから、いつか「個人戦」もあるものと覚悟はしていました。それでも、「ついにきたか……」という気持ちでした。
同時に「怖い」とも感じて……。
最新シングル「恋と愛のその間には」でわたしは22作連続でシングル選抜入りをさせてもらいました。「すごい金字塔だ」と言ってもらえるけれど、わたしの中には常にどこかに不安があったんです。
わたしの何が評価されているのか…誰も教えてくれない(加藤さん)
――不安というと。
加藤 いまの選抜メンバーは、運営会社が活動実績とか経験とか、メンバー個人のキャラクターなどを総合的に勘案して選んでいます。でも、どこがどう評価されて選抜されているのか、誰も具体的には教えてくれないんです。「それは言葉にするものではない」という雰囲気があるっていうのか。
最初のシングル選抜入り(2012年8月リリースの「ヴァージニティー」)の理由はわかるんです。わたしは新人だったし、ダンスには自信があった。
バッキバキにダンスを踊る新人が1人ぐらい交じっていると面白いだろうという、まあ実験ですね。でも、その次以降も選んでもらっているうち、だんだん「大丈夫かな、わたし?」と思うようになりました。
アイドルである以上、自分の居場所は自分で見つけなくてはいけない。他人に答えを求めるな、という美学はわたしにもあります。
でも、誰も何も教えてくれないと、それはそれで心細い。「ただなんとなく、理由もなく選ばれているだけなのかな」というマイナスな思考にもなりました。
今回の投票イベントに対しては、「わたしが自信をもって選抜に入れる初めての機会がついに来た!」って気持ちと、「でも、選抜に入れなかったらどうするの?」という怖い気持ちが同居しています。
手の届かなかった選抜…わたしに何が足りないの(川上さん)
川上 わかります。選抜ってやっぱり特別なんですよ。わたしにとっては、ずっと手の届かない遠い存在だった。あこがれ続けていたわけです。
わたしが初めてシングル選抜に入ったのがいつかご存じですか。2016年暮れ、16枚目のシングル「僕以外の誰か」です。実に加入以来4年です。長かった。それだけに特別な感激がありました。
でもその次に選抜から外れた。19年に20枚目シングル「床の間正座娘」から選抜に復帰できるまで、また長い時間を要したんです。
わたしに何が足りないの。誰か教えて、とずっと思ってました。18年暮れあたりはもう最低な気持ちでしたね。順調な人をねたむ気持ちまで起きてくるし、そんな自分もみじめで。
最近は連続してシングル選抜に入ることができ、「やっと自分もアイドルとして自信がもてる」と思っている矢先だった。
ここで失速したくはないし、しっかりファンのみんなと喜び合える結果をつかみたいという気持ちはあります。
数字や順位に換算できない価値もある(加藤さん)
――投票順位がつくということについては。
加藤 さきほど選抜入りを続けるプレッシャーについてお話ししましたが、実は運営会社の人から「一度だけ、選抜から外してもいいかなと思った」と告げられたことがあるんです。でも、しなかった。「君には、ファンがしっかりついてきてくれている」と……。
わたしはトークとか盛り上げ役とかあまり得意じゃないと思ってきました。だから自分の得意なダンスで、舞台上でのパフォーマンスの芯をつくる役割を自任してきたし、NMBの歴史を初期からみてきたものとして、草創期の空気や精神を今に引き継ぐことを心がけてきた。
そういう目には見えない部分、数字には換算できない価値をつくり出そうと思って頑張ってきたのがわたしの10年です。そしてそれが、わたしの選抜入りを支えてくれたものだったのかも知れないとも思うんです。
だから、「順位」にこだわるのは矛盾しているようですが、それでも、速報順位(15位)を聞いた瞬間、「悔しい……絶対いやや……」という思いがこみ上げました(その後の中間発表では10位に)。
わたしはいまのポジションを守りたいのではなく、もっと上をめざしたい。今までやってきたことが間違いではなかったと証明したい。そして、多くの人に知ってもらいたい。
だから、あくまでもファンの人たちと一緒にはい上がっていきたい気持ちです。
「目標は5位以内」だったけれど…なめてた ファンを私を(川上さん)
川上 わたし、目標を「5位以内」って掲げたんです。ちょっと強気すぎるかな、とも思ったのだけど……。わたし、これだけ長くアイドルをやってきました。
この間、なんの問題も起こしていません。ひたすら真面目にやりきってきました。そろそろ正当に評価されてもいいんじゃない?と思って。
そしたら速報発表で2位。ひっくり返りましたね。10位あたりの発表から「ああ、もうわたしが呼ばれることはないね……」と思って、悲しい気持ちでぼーっとしていたので、2位で呼ばれて心底驚いたというか。
ファンの人たちの熱い気持ちをなめていたし、自分自身のことも見くびっていた気がします。
中間発表で3位に下がって、「悔しい!」と思った。目標だった5位以内だから喜んでもいいはずなんですけど、2位から3位に下がったのが納得できなかった。なので急きょ目標を「1位」、センターに格上げしました。
高みを知るってこういうことなんだなって。ここまできたら、ファンの人たちを悲しませるわけにいかない。
フレッシュさを決めるのは経験年数の長短じゃない(加藤さん)
――アイドル10年のキャリアを、どう武器にしていきますか。
加藤 アイドルの世界は入れ替わりも競争も激しい世界です。アイドルは経験年数が浅いほうが有利、みたいな見方もあるかも知れません。
でも、アイドルという職業に向き合う姿勢や魂の部分でこそ評価されてほしいな、とわたしは思います。わたしの場合、それは青春をかけて取り組んできたNMBでの10年の活動で培ってきたものだし、その意味ではキャリアのたまものです。
「フレッシュさ」は単に若さではなく、物事に取り組む姿勢、心がけのことでもあるとわたしは思います。フレッシュさは「失敗をおそれないこと」「ちょっとしたことに感動する気持ちを失わないこと」だと思ってきました。だから、わたしは今もフレッシュです、と自信をもっていえます。
たとえば最近、ユーチューブでヨガ動画の配信を始めました。
別にこれで投票が増えるとか思いません。コロナ禍で在宅の人が増え、運動不足の人もいるでしょう。わたし自身もそうでした。だから、一緒に気持ちをリフレッシュし、体をほぐして……。
ファンの人たちと一緒に前に進む。常に何か新しいことにチャレンジする。そんな信条をわたしはかたちにしてきました。そして、これからもきっとそう。
「加藤は安定感がある」とか「加藤がいると安心する」とかは、わたしにとっては褒め言葉ではありません。一つのところに安住せず、挑戦の気持ちを忘れなかったから、今のわたしがあるんだと思っています。
それは、先輩たちに比べて「小粒」などと評されるなかで活動を始めたわたしたち3期生がよりどころにした共通精神でもあるんです。
今は3期生はわたし一人となってしまいました。でもわたしは誰よりも3期生であり続けたいと思っています。
ベテランだから つらい思いをしたから 表現できるもの(川上さん)
川上 アイドルも他の職業のように、キャリアや経験年数が正当な評価につながっていく時代だと思います。
プロ野球だってそうじゃないですか。若手が活躍すれば脚光を浴びるけれど、経験を積んだベテランだからこそ切り抜けられるピンチ、みせられるプレーはたくさんあるでしょう?
代打の神様として、ここぞというときに試合を決める選手もいる。そういうベテラン選手の活躍にわたしたちはうれしくなって、勇気をもらうわけですよね。
あっ、そうそう、わたしが尊敬しているのは阪神タイガースのベテラン、糸井嘉男選手です。
――キャリアを積んでこそ出せる魅力や味わいがあるということですね。
川上 いろんな経験をするうちに、人間的な奥行きというか、幅が備わるものじゃないでしょうか。
冒頭、「カトレア」の曲で花がしおれる動きの表現がよかったという話がありましたが、NMBの活動のなかで実際に気持ちがしおれるような経験やめげる体験をいっぱいしてきたわたしだからこそ、表現できる世界はいっぱいあります。
そんな経験をしてきた人の励みにも力にもなれると思うし……。
アイドルっていい仕事ですよ。今のところは、この先ずっとアイドルでもいいかなって思っています。
「自分にも、メンバーにも負けない」と叫んだ真意は…(川上さん)
――ところで、川上さん、昨年11月開催のNMB48「11周年コンサート」で、「わたし9年目だけど、もっともっと上に行きたい。自分にも、メンバーにも、負けへんで~!」と叫んでいました。ライバルでもある「メンバー」に負けないっていうのはわかります。「自分に負けない」というのはどういう?
川上 ああ……。そんなことも言いましたね。
――「自分にも、メンバーにも」ってことは、まず、自分に負けないってことが先にくるわけですか。
川上 あのですね……。やっぱり見えてくるんですよ。長年やっていると、自分の不得意な分野、限界というのが。この分野は頑張ってもダメだな、とか。
でも、それは本当に限界なのか。自分で勝手にできる範囲を決めているだけじゃないのか。恥をかきたくないだけではないのかって……。
もっと突き抜けるためには、そういうのも捨てないといけない。だから「自分に負けない」って宣言したんです。
アイドルは「通過点」? 勝手に決めないで!(加藤さん、川上さん)
加藤 アイドルって、広い意味では、人に笑顔を与えられる、あこがれの対象となる存在のことだと思うんです。だから年齢とか立場とかに関係なく、その気があれば一生ずっとアイドルであり続けることは可能だなって最近よく思います。頑張ろうかな、わたし……。
川上 48グループではよく「アイドルは通過点だ。ここをステップにして、次の舞台へはばたけ」みたいなことが言われるけど……。勝手に決めないでほしい。いいやん、ずっとアイドルで。
わたしにはアイドルとして、やるべきことがいっぱいあるんですよ。同期生の渋谷凪咲はバラエティーの世界で大ブレークした。世間の人がNMBに興味をもってくれるきっかけ、入り口になっている。
わたしもそうなりたいんですよ、NMBの入り口に。フィギュアスケート経験、プロ野球好き、そして女優業。いろんな引き出しをもったアイドルとして。そう簡単にやめられないよ。
加藤 そうだよね。「ずっとアイドル」で頑張ろうか。逆に、どこまでやりきれるかチャレンジだね!
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル