東京都千代田区道「神田警察通り」の整備に伴う街路樹伐採問題で、区に意見を求められた有識者の一人が、「聞き取りを元に区が作成した書面を事前に確認できず、自分の意見が正確に伝わらなかった」と訴えている。街路樹の保存を訴えたが十分に反映されたなかったといい、区も「事前に確認を求めるべきだった」としている。
問題になっているのは、区道約1・4キロを整備する2期工事分(約250メートル)。4車線のうち1車線を減らして歩道を拡張し、歩行者と自転車の通行スペースを設ける計画で、沿道のイチョウ32本中30本を伐採するもの。区は近く着手する予定で、住民らが反対している。
区によると、区議会から「学識経験者の意見を聞き、保存案も検討するように」と申し入れがあり、2020年7~8月、保存案と更新(伐採)案の2案を街路樹の専門家4人に示し、個別に約2時間ずつ意見を聞いたという。
区は意見をまとめた文書を作成。住民アンケートの結果とともに、町会長らでつくる協議会に配布した。文書に沿って説明し、伐採方針を決めた。区はその後、区議会に4人の意見の骨子と、整備計画に反映した意見を文書で提出した。文書には4人の肩書のみを記し、実名は伏せられた。
これらの文書をめぐり、区の聞き取りに協力した藤井英二郎・千葉大名誉教授(環境植栽学)は、「区が協議会や区議会に提示する前に、一度も確認する機会がなかった」と述べた。
藤井さんは日本庭園学会会長も務めた街路樹研究の第一人者。区の聞き取りに対し、「保存が最優先」と述べたという。区の担当者には「数十年かけて成長した街路樹の枝や葉の茂りなどは数年では得られない。既存の街路樹を現在の場所でいかしながら整備する必要がある」と改めて伝えた。
しかし、区が作成した文書には、保存案、伐採案のいずれにも藤井さんの提言などが記されていた。藤井さんは「自分の発言が、どの問いかけに対するものかが記載されてないため、保存、伐採を同等に評価しているように受け取られかねない」と指摘。「事前に確認できたら『保存案』を主張し、『伐採案』を否定する見解となるように修正を求めた」と話した。実際、藤井さんの意見をまとめた文書には、低木と草の種類を誤って記した箇所もあった。
これに対し、区は、「文書作成後、専門家に確認を求めた方が丁寧だった」と説明。ただ、一連の手続きについては、「専門家4人に同じ資料を示して聴取し、特定の専門家を特別扱いするような意図はまったくない。公平公正だったと認識している」と説明した。藤井さんの「保存すべきだ」との意見を整備計画に採用しなかった点については、「(道路整備という)目的を達成させるためには反映できなかった」とする。
山下祐介・東京都立大教授(社会学)は「行政の考えに合った意見を恣意(しい)的に選び、施策の根拠付けに利用することはあってはならない。聴取した専門家から疑念を抱かれるのでは、手続きが不適切だったと疑わざるを得ない」と指摘する。また、今回の事例で専門家が匿名とされた点も問題視する。「政策決定に関わるようなケースでは、どの専門家がどのような発言をしたのか、行政は公表する責任がある。万が一、行政によって意見が捏造(ねつぞう)されても、区民には確認できないからだ」と話す。(武部真明)
藤井英二郎・千葉大名誉教授 「保存が最優先と答えた」
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル