「お願い、日の丸を買って。どうしても欲しいの」
清末愛砂さん(50)は40年前、当時暮らしていた山口県内のデパートで母親に懇願した。小学校2年生だった。
祝日があるたび、学校で教諭から「家に日の丸を掲げていない人は手を挙げなさい」と言われたからだ。挙手した児童に、教諭はただ、「ふーん」と反応した。何を言うわけでもなかったが、掲げないことが「悪」と言われているように感じられた。
最初は何人もが手を挙げたのに、次第に少なくなった。数カ月後、自分ともう2人だけになった。事情を知った母は、しぶしぶ日の丸を買ってくれた。
安心した。「これで堂々としていられる」
祝日になると、倉庫に駆け込んで日の丸を引っ張り出し、家の前に掲げた。
ところが2回しか飾らないまま、日の丸はある日突然、倉庫から消えた。
「日の丸がないんだけど……」
母は、強い口調で怒りをあらわにした。
「そんなの、学校が調べることがおかしいの!」
国旗掲揚、君が代斉唱、運動会で「かしら、右」と言いながら校長先生の前を行進すること――。母はことあるごとに、連絡帳に「管理教育はやめて下さい」「学校に心を縛り付けるのはやめて下さい」と書いた。テストの点数や通知表には全く興味がないのに、思想を誘導するような行為には敏感だった。
一体、なぜ。
母の根っこにあった悲しみを…
【5/10まで】記事読み放題コースが今なら2カ月間無料!詳しくはこちら
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル