2016年7月11日夜、私は宿直勤務で、会社に届いたメールをチェックしていた。あるタイトルに目がとまった。「養子縁組の負の一面について」。それを開いてみたのが始まりだった。
3日後、約束のスターバックスに現れたのはスラッと背が高く、礼儀正しい青年だった。「大学生になったらオープンにしようと思っていたんです」。そう言って、これまでの経緯や思いを淡々と、わかりやすく語ってくれた。私の取材ノートは2時間余で13ページ埋まった。
メールから察してはいたが、表現の豊かさと頭の回転の速さを感じた。何より、「どんな真実でも知りたい」という強い思いに、圧倒された。
最後に生年月日を聞くと、私の長男と6日違いだった。ひとごとと思えなくなった。
簡単に書ける記事ではない、でもあなたの思いは世に伝えたい。私でよければ力になるよ。そう言って別れたと思う。
「産みのお母さんとの感動の再会を取材できたら素敵だな」なんて、のんきに考えた気もする。当時は特別養子縁組のことをほとんど何も知らなかった。
ほかの仕事と並行しながら児童相談所や専門家への取材を始めた。どうやって出自をたどればいいのか、どんなケースが多いのか。
彼とやりとりしながら情報を集めるうち、だんだん私の方が怖くなった。残酷な結果にたどりつくかもしれないとわかってきたからだ。彼は当時、私だけに状況を話していた。
「あなたでいいから寄り添って」
もしそうなったら、彼は大き…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル