サニタリーボックス(汚物入れ)を男性用トイレにも置く動きが埼玉県内で広がっている。膀胱(ぼうこう)がんなどの影響や加齢で、日常的に尿漏れパットが欠かせない人やLGBTQ(性的少数者)への配慮からだ。(猪瀬明博、上田雅文、加藤真太郎)
県のまとめでは、県内で2018年、膀胱(ぼうこう)がんや前立腺がんと診断された男性は約6千人。これらの病気や加齢で、尿漏れパッドを付ける男性は少なくない。
加須市に住む日本骨髄バンク評議員の大谷貴子さん(60)は昨年6月、公共施設などの男性用トイレにサニタリーボックスがほとんど置かれていないと知った。大谷さんや当事者の声を聞いたさいたま市議が市議会でこの問題を取り上げた。
市が昨年8月に調査したところ、市内333公共施設の男性用トイレのうち、ボックスが置かれていたのは8施設だった。市は衛生面などの状況を見極めた上で設置を進め、市内の10区役所や文化センター、体育館など約120施設に設置した。
同市大宮区の男性(71)は数年前に大腸の病気にかかり、人工肛門(こうもん)を付けていた。勤務先や買い物に行く商業施設のトイレにはボックスがなく、人工肛門に付けた袋を取り換えるとかばんに入れて持ち帰っていた。「気持ちがめいって、外に出るのがおっくうになった。せめて多目的トイレに置いてくれたら当事者は助かる」という。
三郷市では先月初め、さいたま市の取り組みを参考に、各施設の意向を確認した。市内57カ所の公共施設で設置希望があり、市役所や図書館、体育館などに加え、多機能トイレがある市内18の公園にも置いた。「公園の多機能トイレへの設置は画期的」(日本トイレ協会の砂岡豊彦事務局長)という。足踏みペダルが付いたステンレス製を229個置いた。木津雅晟市長は「今後も多くの方が安心して利用できる公共施設の環境づくりに取り組む」と話す。
加須市は4月から本庁舎と3総合支所の男性用トイレの個室計24室に置いている。市の担当者は「病気の方のほか、LGBTQなど性的少数者の方にも配慮した」と話す。
◇
男性用サニタリーボックスの必要性を提唱した日本骨髄バンク評議員の大谷貴子さんは「こんなに反響があるとは思ってもみなかった」と驚く。当初、周りの男性の反応は鈍く、大半が「ないことに疑問を抱かなかった」「尿漏れパッドが必要になったら考える」などと話していた。
一方でボックスがないために不便を強いられている人の中には、パッドの使用を知られたくなかったと言う人が何人もいたそうだ。
尿漏れの要因は病気だけではない。男女の別なく加齢でも起こりうる。いまは健康増進のためにスポーツなどをする中高齢者向けに、様々なパッドやパンツ型のおむつも普及している。
大谷さんは「ボックスの常備は時代の要求。遅まきながら、それに気づいたということ」と受け止めている。
加須市は4月からのボックス設置の目的について、性的少数者への配慮にも言及した。「女性から男性になった友人がいる。これまでは生理用品を袋に入れて持ち帰っていたそうで、(設置を)喜んでいた」と大谷さん。これからも声をあげていこう。そう思いを新たにしたという。
◇
一般社団法人・日本トイレ協会(東京)は2月に開いたセミナーで「『男子だって汚物入れが欲しい!』~ジェンダーフリーなサニタリーボックスを!~」をテーマに議論した。
砂岡事務局長が「男子トイレにも汚物入れが欲しい。汚物入れという名前も含めて、みんなで考えていきたい」と問題提起した。10年ほど前、病気の治療で座薬を使い、ナプキンをあてていた経験を持つ。「病気の影響で自分の意思と関係なく漏れてしまい、日常的に尿漏れパットが欠かせない男性が増えている。高齢化で軽い失禁を経験する人も増えている。私もそうだったが、他人には話しづらい」と話す。
協会が2月に実施したインターネット上でのアンケート(回答者557人)で、尿漏れパットやおむつなどを使う男性の7割近くが、男性トイレにサニタリーボックスがなくて困った経験が「ある」と答えた。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル