9月1日は防災の日。家庭で備蓄食品や飲料水を点検してみてはいかが。気づいたときには賞味期限切れということもある。そこで注目されているのが、保存食を定期的に食べて補充していく「ローリングストック」という考え方。最近は、おいしくて扱いやすいフリーズドライ食品の活用が広がっている。
大きな災害が起きると、物流が滞って食品が店の棚から消え、水道も出なくなる。内閣府は「大規模災害に備え、3日分のストックを」と呼びかけているが、できれば1週間程度の備蓄があった方がいいだろう。
しかし、同府の2017年の世論調査では、「大地震が起こった場合に備えてどのような対策をとっているか」という問い(複数回答)に対し、「食料や飲料水、日用品などを準備している」という回答は45・7%だった。
私の家でも食品や飲料水の備蓄はしている。しかし押し入れに入れっぱなしで、先月点検したら、ペットボトル入りの飲料水はすべて期限切れ。庭の植木にかけることになってしまった。
こうした無駄を減らし、備蓄の心理的負担も下げる方法として注目されているのが「ローリングストック」。保存食を買って定期的に食べていき、補充していく考え方だ。期限切れが起きにくいし、いざというときでも慣れた味のものが食べられる。
防災教育に取り組むNPO法人プラス・アーツ(神戸市)もローリングストックを推進している。きっかけは、阪神淡路大震災から10年たった05年、理事長の永田宏和さん(50)が多数の被災者から話を聞いたことだった。
「毎日同じ弁当やパン、おにぎり。炭水化物が多く『おなかを満たせばいい』という感じ。もっとおいしくて温かいものを食べたかった」「あの食事では元気になれなかった」という声があふれていた。
食品の種類増え、食感や味もよく
人間活動にまず必要なのはエネルギーなので、避難所などでおにぎりやパンが配られるのは理にかなっているが、そればかりでは飽きてくる。好きな食べ物を自分で備蓄していれば補えるが、言うはやすしで……。
そして出会ったのがローリングストックの考え方。「大量に買い込み、食べないうちに期限が一気に来てしまうのがこれまでの備蓄のやり方。結局、やらない。ローリングストックは『日ごろから食べていきましょう』という考え。『目からウロコ』でした」
当初は「普段づかいできるおいしいレトルト食品や缶詰を使いましょう」と勧めていたが、フリーズドライ食品の種類が増えていると聞き、食べてそのおいしさを知った。今は、「アマノフーズ」ブランドのアサヒグループ食品の備蓄用フリーズドライ食品詰め合わせづくりに協力している。
フリーズドライ食品は、密封後に高温殺菌する缶詰などと違い、食材をマイナス30度程度まで冷やして凍結したあと、空気圧を下げて食品に含まれている水分を昇華させる製法で作られている。過度の加熱はしないので、食感や風味がよく保存される特徴があり、お湯をかけるだけで簡単に戻る。
アサヒグループ食品は枝豆、みそ汁、大根おろし、ポテトサラダ、パスタなど約200種類を販売している。カツカレーを開発したこともある。
岡山県里庄町にある工場を訪問すると、大量のみそ汁を作ってから具を加え、トレーに入れて凍結、そして真空乾燥させる工程を見せてくれた。凍結に8時間、真空乾燥には24時間かけるのが基本だが、商品の種類に応じて最適の温度や時間を細かく調節しているという。
好きなものを食べ、ストレス克服
ローリングストックを推奨する企業も増えている。「無印良品」の良品計画は「いつものもしも」のプロジェクト名で食品や備蓄方法をイベントなどで紹介。トーヨーフーズも「備えるために、いま食べる」をキャッチフレーズに、野菜、ケーキ、ごはんの缶詰の詰め合わせを販売している。
宮城大の石川伸一教授は「嫌いなものをストックする必要はない。被災して緊張を強いられている状況では、苦手なものを食べてストレスになるより、好きなものを食べてリラックスするのがいい」という。
プラス・アーツは①普段からちょっと多めに食材を買い置きし、被災直後の3日間は冷蔵庫のものでしのぐ②次の3日間はローリングストックしている食材でまかなう③それ以降は、乾物や発酵食品などの保存食などで乗り切ろうと呼びかけている。(勝田敏彦)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル