京都アニメーションの放火殺人事件から3年が過ぎた18日、現場となった第1スタジオ(京都市伏見区)の跡地で追悼式が非公開で営まれ、遺族が追悼の言葉を述べた。京アニが報道各社に提供した全文は以下の通り。
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天国の皆様へ
皆さん、お元気でいらっしゃいますか。そちらの世界でも変わらずアニメーションのお仕事に励んでおられますか。それとも、愛する家族を空の上から見守りながらのんびりしていらっしゃいますか。青い空を見上げてはそんなことを想(おも)います。
娘が逝ってしまったあの日から、3年。娘よ、貴方(あなた)はいなくなってしまったけど、沢山(たくさん)のスケッチブックや資料、大好きな映画のDVD等々、貴方が愛用した数々の物は貴方の部屋で変わらずそのままです。貴方が戻ってくるのを待っているかのようです。お友だちからプレゼントされ大事にしていた掛け時計は今もコチッ、コチッと時を刻んでいます。
コチッ、コチッ、時計の響きは京都アニメーションに入社したばかりのころ、独り暮らしの貴方の部屋を訪ねた時にタイムスリップさせてくれます。そこには休日なのに何枚も何枚も鉛筆で絵を丁寧に慎重に描いていた貴方がいました。側で見ていた母は、そんな貴方の姿が嬉(うれ)しくて「ついに夢をかなえてアニメーターになったね、良かったね」と声をかけると「何言ってるの、入社したばかりだよ。沢山、練習して早く戦力にならんと。私は他の人より描くのが遅いんだよ。早く描けるように頑張らんと」と反対に怒られてしまいました。でも、その顔が明るく生き生きしていたのを忘れられません。その後も部屋を尋ねるたびに絵が上達できるよう努力している貴方がいました。本当によく頑張ってるなぁと頼もしく思った反面、体は大丈夫なのかな、少し休めばいいのに、と心配もしました。
あの日、どんなに怖かったことでしょう。無念だったことでしょう。まだまだ、続くはずの未来を突然絶たれてしまった悔しさ、悲しみは母も貴方と同じです。もっと、もっと貴方の未来を見ていたかった。貴方に会えない寂しさ、悲しさ、辛さはこれからも続くでしょう。でも、どんな時も自分の考えを持って目標に向かって努力をし全力で走った貴方、母の知らないところで、人を笑わせたり、優しくしたりした貴方を母は誇りに思っています。そんな貴方を心配させない為にも、母は笑顔でいられるように頑張っていきたいと思います。いつかまた、貴方に会う時に、笑顔で会えるように。
結びに、あの日、天へ召された36名の皆様、私たち残された家族は日々、あなた方との思い出を胸に、泣いたり、笑ったりしながら少しずつ、少しずつ前を向いて頑張っています。どうか安心して見ていてください。皆様のご冥福をお祈りし追悼の言葉とさせて頂きます。
2022年7月18日
母より
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル