高億翔
2016年に長野県軽井沢町でスキーツアーのバスが転落し、運転手や大学生計15人が死亡した事故の公判が21日、長野地裁(大野洋裁判長)であり、業務上過失致死傷罪に問われたバス運行会社イーエスピー(東京都)の社長と元運行管理者への被告人質問があった。遺族の質問に対し両被告は「教育や訓練をすれば事故は防げた」と述べ、運転手への安全教育が不十分だったことを認めた。
16年1月15日午前1時50分ごろ、軽井沢町の国道18号でスキー客を乗せたバスが崖下に転落、大学生13人、運転手2人が死亡、26人が重軽傷を負った。検察側は公判で事故は「死亡した運転手の運転経験が乏しく運転技量が不十分だったことに起因」すると指摘。同社の安全管理が適切だったかが争点になっている。
この日は、被害者参加制度により遺族8人が被告に直接質問した。事故で息子の寛さん(当時19)を失った田原義則さん(56)は「どうすれば事故が防げたと思うか」と質問。社長の高橋美作被告(60)は「今思えば教育や訓練をすれば事故は防げたと思う」。元社員で運行管理者だった荒井強被告(53)も同様の回答をした。
他の遺族は「亡くなった人の名前を言えるか」「あのバスに自分の家族を乗せられたか」と被告に迫った。これに対し、「紙が無いと言えません」(荒井被告)「今は乗せられない」(両被告)と2人は答えた。また、「荒井被告に運転手教育などを任せていた」と繰り返す高橋被告に、遺族が「恥ずかしくないのですか。自分の保身の方が強いのでは」と憤りを伝えると、高橋被告が「保身はしていません」と答える場面もあった。
事故前年の15年2月、国土交通省関東運輸局の監査で、同社の運行管理に関する法令違反が指摘された。遺族側の弁護士が「安全の重要性を認識したのはいつか」と尋ねると、高橋被告は「15年暮れから16年にかけて」と説明。教育体制の不備も明らかになっており「(体制を整えなければ)事故を起こす可能性はあった」。荒井被告も「教育を行わなければ、事故が起こりやすくなると思っていた」と話し、事故前に危険性を認識していた可能性が示された。
遺族会代表の田原さんは公判後、報道各社の取材に「教育をやっていれば防げた、と言った。憤りとむなしさを感じた」と話した。
次回は10月11日に論告求刑と、遺族の意見陳述が予定されている。(高億翔)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル