待機児童ゼロに保育料無償化。少子化を国難と位置づける政府は、保育政策を対策の目玉に掲げてきた。明快なスローガンに巨額の予算が投じられる裏で「保育の質が置き去りになった」と警鐘を鳴らす保育士がいる。名古屋市などで保育士を40年続け、雑誌「ちいさいなかま」で10年間コラムを連載した平松知子さんに聞いた。
――保育士の多くが、このままでは働き続けることがつらいと考えている、と訴えていますね。
「大きな理由の一つに配置基準の問題があります。今の基準では1、2歳児は保育士1人で6人を、4、5歳児なら30人をみることになっています。災害が起きた時、まだ歩けない子もいる1歳児6人を、あなた1人で避難させるのは難しいと思いませんか? こう問うと、皆さんウンウンとうなずかれます。しかし保育士のつらさは、こんな数字では表しにくいところに日常的にあります」
――どういうことでしょう。
「日々子どもたちと向き合っていると『もう1人保育士がいたら、この子は救われるのでは』と思う場面に何度も直面します。例えば2歳児クラスでのこと。公園から帰ろうとすると1人の子がダンゴムシに夢中になっている。誰か1人保育士がそばにいて『あとちょっとしたら帰ろうね』と言えたらいいけど、国の基準では『わかったわかった! また来ようね』なんて言って連れ帰るのが精いっぱい。子どもの気持ちは二の次、三の次になってしまいます」
部屋に鍵をかける園、ブルーシートの上で食事をとらせる園…。保育政策に危機感を募らせる平松知子さんはこの後、「子ども置き去り」の状況を具体的に語ります。記事後半では、研究者の池本美香さんが、海外の保育政策との比較について解説します。
人生を左右しうる就学前の6年間
――それは、単なる子どもの…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル