日本の在来の野草を、都市の緑化に活用する動きが広がりつつある。地域の生活や文化と結びつきながら、失われつつある自然を取り戻そうという試みだ。増える海外からの来訪者に、日本らしい自然を感じてもらいたい。そんな思いを込めた活動もある。
風になびくススキ、渋い赤い花をつけるワレモコウ――。東京都世田谷区の複合施設「二子玉川ライズ」の屋上には、在来の野草が植えられた緑地や池がある。再開発で新たな商業施設を建てた際、在来種を採り入れた。
前に多摩川が流れ、背後に丘陵地が迫る。そんな環境を意識した。「在来種による緑化は鳥や虫など地域の生き物を呼び込める。不動産価値を高め、地域貢献もできる」と設計に関わったランドスケープ・プラスの板垣範彦さん。
完成から4年余り。池では野生のカルガモが繁殖し、草地には珍しくなったショウリョウバッタモドキも現れる。シンボルに据えたのがカワラノギク。丸石が多い河原に育つが、今では絶滅さえ心配される。それを河原を模したエリアで育て、観察会も開く。全体管理に当たる東急の江南俊希さんは「『原風景だ』と懐かしがる人たちも来られる」と話す。
この取り組みは、日本生態系協会が立ち上げた「野のくさプロジェクト」にも参加登録した。同協会の椎名政博主任研究員は「緑化というと木と芝に目が行きがちだが、野草を増やす活動も広がってほしい」と期待する。
在来の野草を植える取り組みは都心にもある。JR東京駅に近い高架沿いの「味の散歩道」で見られるのも野草だ。JR東日本グループを中心に構成する東京ステーションシティ運営協議会が、東京都建設局のプログラムに加わった道路緑化策として取り組む。
飲食店が並ぶ高架下は、少し暗くてごみが捨てられることもあった。東京大学農学生命科学研究科の根本正之特任研究員は「在来の野草で緑の空間を創出してきれいにし、日本らしい自然を感じられるように」と働きかけた。
提案をもとに、日陰でも育つツワブキやジャノヒゲ、センリョウなどの他、カワラナデシコやフシグロセンノウなども植栽された。
「四季折々に、花や実の彩りを届けてくれるものを選んだ」と取り組みの中心を担う鉄道会館の三本木淳治ステーションシティマネジメント室長。同室の鎌田洋二課長代理は「東京駅は海外から訪れる人も多く、世界への情報発信に適した場所。日本の自然を少しでも感じてもらえる街並みにしたい」と語る。
京都は「和の花」を
古都・京都では、野草や古典的な園芸植物を育てる「和の花プロジェクト」が進む。
「源氏物語」第30帖(じょう)は「藤袴(ふじばかま)」の巻。京都市都市緑化協会によると、2008年に源氏物語千年紀を迎え、市西部で自生系統が見つかっていた、秋の七草としても知られるフジバカマの保全キャンペーンを地元放送局が展開した。その後、同協会も加わって増やした株を集めた「藤袴と和の花展」を毎年秋に開催。これが、葵祭に欠かせないフタバアオイ、厄除(やくよ)けとして祇園祭で飾られるヒオウギ、さらにオケラやキクタニギクといった姿を消しつつある種も含めた、在来野草を保全するプロジェクトにつながった。
野草保全に取り組む企業は今では225社。「鉢で増やすだけでなく敷地内に植える例も出ている。庭で見てもらえば、おもてなしにもなるだろう」と協会の佐藤正吾企画総務課長。森本幸裕理事長は「手を打たなければなくなる恐れのある植物ばかり。多くの協力が得られている」と話す。
市も昨年度から中心部を東西に貫く御池通で、「和の花」の花壇の設置を始めた。4カ所でオミナエシやキキョウなどを地元の人たちが管理している。市緑化推進課は「順調に育っている」とみて、他でできるかも検討していく。(米山正寛)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル