平凡な日常生活に飽きたら、深い山々に囲まれた埼玉県西部の秩父地方を訪ねるといい。ここはまさに知的好奇心やロマンをかきたてるネタの宝庫だ。
約1700万年前、「古秩父湾」と呼ばれる海が広がっていた。「その後、沈降して深海になりますが、再び浅海が形成され、多様な生物が暮らすようになったのです」。県立自然の博物館(長瀞(ながとろ)町)の井上素子・自然担当学芸主幹は説明する。
太古の海を悠々と泳いでいたのがパレオパラドキシア。絶滅した海生哺乳類だ。体長2~3メートル。姿はカバに似ているが、ウシやクジラなどと同じ仲間に属するという。
「太古の(パレオ)矛盾した(パラドキシア)生き物」との意味が名前に込められており、進化や生態の面で謎が多いとされる。1970~80年代、秩父市内で全身骨格化石が相次いで発見され、話題になった。
「幻の海獣」「世界の奇獣」と呼ばれ、化石は世界でも珍しいが、日本では多くの発見例が報告されている。「しかも埼玉から見つかっているものが多いのです。世界最高の産地と言っていいでしょう」と井上さん。
博物館の玄関近くにある復元像を見ると、舌をかみそうな呼び名に似合わず、目が小さく愛くるしい。優しい性格だったのだろうか。歯の形から海藻や貝などを食べていたらしい。
それにしても、この博物館は埼玉にも海があった証拠でいっぱいだ。ヒゲクジラや大型のサメなど秩父や荒川流域で見つかった化石も展示されている。「埼玉には海がない」などと笑う人がいるが、考え直した方がいいだろう。
姉妹館にあたる県立川の博物…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル