登山はちょっとした油断が大きな事故につながることがある。そして、ひとたび遭難をすれば、救助は簡単ではない。今夏は山岳遭難が増えた。秋山シーズンを迎え、山に入る人は注意が必要だ。
警察庁によると、全国で今年7~8月の山岳遭難者は786人で前年より189人増え、統計が残る1968年以降で2番目に多かった。コロナ禍3年目の夏で行動制限がなかったこともあり、全国で遭難が相次いだ。
今年に限らず、遭難で最も多い原因は道迷い。次いで、滑落や転倒が目立つ。その背景には、登山者の疲労もある。
ぬかるみで転倒、足首に激痛
2年前の夏、大阪府和泉市の会社員・守山忠志さん(60)と妻の晴江さん(57)は初めて訪れた尾瀬で遭難した。
尾瀬は福島、群馬、新潟の3県にまたがる人気エリア。夫妻は日本百名山で東北最高峰の燧ケ岳(ひうちがたけ)(標高2356メートル)に登ったが、選んだルートが巨岩の連続で体力を奪われた。
天候が悪くなりそうで、最終バスの時間も気にしながら下山。ぬかるみを避けて歩くときに晴江さんが転倒し、右足首が激痛で歩行困難になった。
携帯電話は「圏外」。忠志さんが人がいる場所まで1時間ほど下山し、救助を要請した。地元の消防から山岳救助隊が向かい、降り始めた大雨と暗闇の中で隊員が交代で背負って下山した。
晴江さんは右足首の骨が折れ、脱臼もする重傷だった。海外の山を登った経験があり、装備も備えて臨んだが、思わぬ大けがを負った。「疲れや時間的な焦り、ぬかるんだ山道もあったが、ふとした油断があった」と晴江さんは振り返る。
救助にあたったのは、尾瀬など福島県南西部の山岳地帯をエリアに持つ南会津地方広域市町村圏組合消防本部。全国の状況と同様に、この夏はあわただしかった。
8月下旬、福島と栃木の県境にある那須連山の三本槍岳(さんぼんやりだけ)(1917メートル)で、小学生と父親の親子を救助した。50メートル先が見えないような深い霧に包まれる中、疲労でともに動けなくなっていたという。
ゆとりを持った行動を
同消防本部は秋山シーズンの登山について、装備や登山計画書の提出、家族に行き先を伝えるといった基本的な対策に加え、次の点に注意を呼びかけている。
①日没が早いので、時間にゆとりをもって計画する。日没に備え、ヘッドライトを携行する。ヘッドライトはヘリコプターから発見する時の手がかりにもなる。
②寒暖の差が大きいので、重ね着の組み合わせを工夫し、着替えも準備する。体温が下がると、足が動かなくなるおそれがある。
③気温差によってガスの発生が頻繁になり、進行方向を見誤る可能性が高くなるので、地図やコンパス、登山者向けの地図アプリ「YAMAP(ヤマップ)」などで細かく確認する。
④体温を下げないために、温かいお湯を準備する。バーナーなどの野外用調理器具を携行する。
⑤クマやイノシシなどの野生動物から身を守るために、熊鈴や笛、撃退スプレーを準備する。
登山だけでなく、秋は例年、キノコ採りで山に入った人の遭難も相次ぐ。特にキノコ採りでは場所を秘密にするために、行き先を知らせずに出かけることも少なくないという。そして、秋は日没も早く、救助は時間との戦いにもなる。
同消防本部で長く山岳救助隊長を務めてきた星竜平・警防課長補佐は「山を楽しむためにも、自分は大丈夫だと過信せずに安全への備えを再確認してほしい」と話す。(張春穎)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル