台風15号による記録的大雨で静岡市葵区の中山間地、油山(ゆやま)地区は土砂災害で甚大な被害を受けた。コロナ禍を機に改装したばかりだった旅館には濁流が流れ込み、再開の見通しが立たない。罹災(りさい)証明書の発行や土砂の撤去はどうすればいいのか。悩みを抱える被災者に相談会も開かれた。(小山裕一)
静岡市葵区の中心部から北へ10キロほどの山あいにある油山地区。旅館「油山温泉元湯館」には9月24日未明、裏山から流れ出た雨水や油山川からの大量の土砂が1階に流れ込んだ。濁流が館内をのみ込んでいく光景を撮影し、SNSに投稿した。
旅館には当時、2組4人の客が宿泊しており、海野博揮さん(40)は「とにかく必死でお客様を安全に避難させることで頭がいっぱいだった。お客様の救助を求めるため、現状を積極的に投稿した」と振り返る。
そんなとき、鎖でつないであったガスボンベが外れて旅館内に流れ込んだ。濁流で足を滑らせる危険もあったが、火災の恐れがあるため、妻の加奈子さん(41)といっしょになんとか外に運び出した。その後、客4人と飼い犬3匹は24日午前、無事にヘリで脱出してもらった。
旅館はコロナ禍を機に改装を続け、昨年11月からは犬を連れて泊まる専用旅館として再スタートしたばかりだった。だが、旅館の1階は広範囲で被害を受け、2メートルも土砂が積もった場所もあり、重機でなければ撤去できない。宿泊客の車も土砂に埋まったままだ。まとまった雨による二次災害が心配という。
海野さんは「今後のことは見通しが全く立っていない。お客様の車もどうしたらいいのか。安全ならここで営業を再開したいが、1年や2年でできる話ではなく、はっきりとは分からない」と漏らす。ただ、旅館の再開に向けて一歩を踏み出し、クラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/630834)で再建資金を集め始めた。11月30日まで受け付ける。
油山地区に住む小柳岳人さん(56)は自宅が床上浸水した。外に設けられたボイラーは水につかり、風呂が使えなくなった。母は藤枝市に住む親類の家に行って、風呂を使わせてもらっているという。また、自宅前の道路に泥がたまっており、自身だけでは撤去が難しいという。「雨が降った時に滑って転び、足をすりむいたこともある。一刻も早く復旧して欲しい」
油山地区では3日夜、弁護士や災害ボランティアによる相談会があった。復旧に必要な知識を具体的にアドバイスした。
災害ボランティアは床上・床下浸水した家屋の清掃の方法を動画を交えて伝えた。「ぬれた家をそのまま放っておくと、後からカビや悪臭が発生し、生活に支障が出る場合がある」という。そのため、床下の状態をしっかり確認し、最低でも1カ月かけて乾燥させるように指導した。
県弁護士会の災害対策委員会副委員長でもある植松真樹弁護士は、行政から支援を受ける際に必要となる罹災証明書の申請方法を解説した。被害の様子を残すために、家の内外の写真や動画をたくさん残すことを求めた。また、家の外はなるべく4方向から撮影し、「浸水の深さが分かるようにして欲しい」と話した。
一方で県弁護士会が電話相談を受け付けていることも紹介し、「親戚の人に相談するぐらいの気持ちで、気軽に利用して欲しい」と呼びかけた。弁護士たちは今後も現地で相談会を開く予定という。
弁護士会や区役所が相談窓口
台風15号の被災者向けの相談窓口が次々と開設されている。県弁護士会の相談窓口では、平日の午前10時~正午か午後1~4時に電話(054・204・1999)で申し込むと、弁護士から折り返しの連絡が来る。
弁護士や司法書士、建築士などの県災害対策士業連絡会(事務局は県弁護士会=054・252・0008)は31日まで、静岡市内の3区役所で生活再建の相談を受け付けている。時間は午前10時~午後4時。葵、駿河区役所は平日のみで、清水区役所は毎日対応している。
葵区災害ボランティアセンター(080・5071・9507または080・5071・9520)は午前10時~午後4時、ボランティア派遣の相談を受け付けている。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル