夕刻が近づくと、高知市に住む濱口咲良(さくら)さん(28)は身支度を始める。
おしろいを顔に塗り、着物をまとう。
日本髪のかつらを着ければ、土佐芸妓(げいこ)の「由喜千代」が出来上がる。
鏡川の河畔にある料亭濱長(はまちょう)。「乾杯」の声が客間から聞こえると、すっと訪ねてあいさつする。一人ずつお酌をして「返杯(へんぱい)」。今はコロナ禍で控えているが、客の杯で酒を飲み干して返し、歓迎の心を表現する。
土佐弁で盛り上げ、お座敷遊び
接客は次第に土佐弁になる。「空いちゃーせんやいか(グラスが空いてないよ)」。場を盛り上げ、食事が進むと踊りを披露する。
そこから郷土に伝わる「お座敷遊び」が始まる。
まずは「可杯(べくはい)」。コマを回して指し示された席の客は、天狗(てんぐ)などの形をした杯で酒を飲まねばならない。飲めない客には皆で助太刀する。
「箸拳(はしけん)」は手の下に隠した箸の合計数を当て合う遊び。負ければおちょこの酒を飲む。妖怪の顔が描かれた手ぬぐいをかぶって客も加わる「しばてん踊り」もある。
由喜千代はいま、高知のおもてなし文化を継承する、ただ一人の土佐芸妓だ。地元の新聞社で働いていた咲良さんが、24歳で芸妓になったのには事情がある。
唯一の土佐芸妓となった由喜千代。記事後半では、芸妓の世界に足を踏み入れることになった経緯のほか、お座敷文化を残そうと奮闘する姿も動画で紹介します。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル