大阪・ミナミにある一軒のバーで、店主が絵本の読み聞かせをしている。ほろ酔いの客に朗々と語る自作に登場するオオカミは、かつて罪に手を染めた自身の姿でもあった。
「絵本BARガブ」は多くの飲食店が入る雑居ビルにある。扉を開くと、男性の声が耳に飛び込んできた。
「1匹のオオカミがいました。そのオオカミは、ほかのオオカミより少しおとなしく体も少し小さいくらいでした」
声の主は、バーテンダーの安達剛(つよし)さん(44)。読んでいたのは、オリジナルの絵本「酔いどれオオカミ」だ。店内には900冊以上の絵本が所狭しと並ぶ。
「1冊の絵本で人生が変わった」と話す。
堺市で育ち、10代の頃からミナミを遊び歩くなかでバーテンダーに憧れ、自分の店を持つことを夢見た。
だが、自営業だった両親は、経営の失敗で多額の借金を抱えていた。20歳になると自身が300万円ほどを肩代わりすることになった。
その場しのぎで親と毎日サラ金を回り、借金は雪だるま式に増えた。
借金返すため、手を染めた詐欺
そんな時、求人誌である仕事を知った。「月収100万円以上可」とうたう、貴金属の訪問販売だった。
詐欺行為と気付いていたが、苦境から脱するチャンスと思った。
はじめに入った会社で手口を学んだ。23歳の時、先輩たちと一緒に退職して会社を立ち上げたが、やっていることは同じ。上司には暴力団関係者もいた。
25歳の時、自分を含めた社員全員が詐欺容疑で逮捕された。執行猶予付きの有罪判決を受けた後も、会社からの前借りによる借金がかさみ、訪問販売を続けるしかなく、生き方を変えられなかった。
「どこにも希望が見つからず、地獄をさまよっているような感覚だった」
そんな時、出張で訪れた長崎のビジネスホテルで1冊の絵本に出会った。
■仕事着のまま片っ端から読ん…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル