鉄道会社が、中小やベンチャー企業の支援に乗り出している。沿線で経営者を育てようとしたり、ベンチャーと協業したりする動きが相次ぐ。人口減少で鉄道事業の伸びが期待できないなか、主力以外の新たな事業を開発するねらいだ。
大阪市の南海電気鉄道本社の会議室に8月末、若者たちの議論する声が響いた。参加したのは、沿線に住む34歳未満の後継ぎを中心とした計29人。家業を生かした新事業を立ち上げたいと考える「ベンチャーの卵」が、チームに分かれて3日間、収益が見込めそうな事業のアイデアを出し合った。
南海が初めて企画したコンテストは、その名も「南海沿線アトツギソン」。チームで防災グッズや調理家電をつくる新事業などを紹介し、実際の経営者から厳しい指摘を受ける場面もあった。最終日の発表会は一般公開され、優秀チームが表彰された。
子供用自転車の補助輪をつくる「安井製作所」(堺市)の3代目候補、竜田(りゅうた)綾(あや)さん(29)はパートの仕事をしながら、家業を週3日ほど手伝っている。祖父、父と続く家業への愛着はあるものの、安い中国製品に押されて売り上げは減少。先行きが不安で、後を継ぐかどうかは決めかねていた。「家業を支えられるような新事業を考えたい」
南海がコンテストを開いたのは、人口減少が進んで鉄道や不動産収入が落ち込むとの危機感があるからだ。沿線の大阪府南部や和歌山県北部には繊維業や金属加工会社が多いが、近年は衰退が目立つ。こうした地場産業を後押しするためで、「将来的に今回の参加者らと一緒に新事業を展開できたらいい」(仲矢明子・沿線価値創造部課長補佐)という。
東急は7月、ベンチャーなど企業との協業を促す会員制スペースを東京・渋谷に開設した。大企業の社員らがベンチャーの資金援助の相談にものる。東急自身も参加企業と交流し、鉄道以外の事業展開につなげたい考えだ。東急広報は「協業を加速させるのに加え、ベンチャー人材を渋谷に集積させたい」と話す。
阪急阪神ホールディングスは8月、不動産分野のベンチャーに出資・協業するねらいで、10億円規模のファンドを設立。JR東日本も昨年、出資枠50億円のベンチャーキャピタル(投資会社)を立ち上げた。水産卸のベンチャーと組み、新潟や岩手から水産物を新幹線で輸送し、都内で販売する実験などを始めた。「地方の資源をうまく活用する方法を模索している」(広報)という。
東京メトロは今年、様々な場所の時間貸し事業を展開するベンチャー「スペースマーケット」(東京)に出資。千代田線綾瀬駅近くの高架下にパーティーなどで活用できるスペースをつくり、運営を委託する。
鉄道業界に詳しい岩井コスモ証券の清水範一氏は「沿線に百貨店やマンションなどを建てて利用者を増やす鉄道のビジネスモデルは、厳しくなってきた。ベンチャーと提携することで、(新事業に)挑む社内風土を醸成したいのだろう」と指摘する。(神山純一)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル