「イシイのミートボール」で知られる創業77年の食品メーカー「石井食品」(千葉県船橋市)。創業家出身で5代目社長の石井智康さん(41)は、3歳の娘と暮らす父親として、社内改革の先頭に立つトップとして、多忙な日々を送る。仕事も、育児も、いっぱいいっぱいの時――発信したのは「SOS」だった。(小林祝子)
トントントン、コトコトコト……。太平洋に面した南房総の千葉県いすみ市。光あふれる朝、畑が広がるのどかな地に立つ一軒家の台所に、野菜を刻む音が響く。包丁を握るのは、石井さんだ。
午前7時、娘と2人の食卓に、炊きたての玄米ごはん、大根やナス、青菜など野菜たっぷりのみそ汁、納豆やのりが並ぶ。もちろん、自社で作るミートボールも。「朝は時間との闘い」と石井さん。2年前に売り出したタレのない「朝ミートボール」は、食べこぼしで子どもの服が汚れず、皿洗いも楽になるようにと生まれた商品。石井さんも開発にかかわった。食べ終わると、急いで身支度を済ませ、娘を近くの保育園へ連れて行く。電車で本社へ向かい、社長としての一日が始まる。
仕事は基本的に午前9時から午後5時まで。会食は断っている。退社後は保育園に直行して娘と帰宅。夕飯を一緒に食べて絵本を読んだりお話ししたりして、お風呂に入れ、寝かしつける。在宅勤務も活用しながら、平日はこんな日々を送る。
IT企業のエンジニアを経て2017年に石井食品に入社し、18年から社長を務める。働く妻と二人三脚で仕事と育児の両立を目指していたが、2021年の夏、妻を病で失った。以来、娘と2人暮らしだ。社長ならお手伝いさんがいて……と思われそうだが、シッターもほとんど頼まない。
「SOS」ためらわない 子連れ出勤も
とはいえ食品工場は土曜日も稼働し、出張もある。そんな時は、ためらわずにSOSを出す。抱っこひもに娘を入れて出勤すると、社員は温かく迎えてくれた。出張や、保育園のお迎えに間に合わない時は、都内の姉や、隣の市に住む妻の姉を頼る。
助っ人は他にもいる。近所の子育て仲間だ。リモートワークの定着もあり、自然豊かな住環境と都心への通勤が両立できる房総エリアは近年、子育て世代に人気の移住先の一つ。石井さんも数年前、妻の体調を考えて東京から移ってきた。さらにはSNSコミュニティーにSOSを出すことも。仕事が立て込んで困った時、コロナで自宅隔離が必要になった時、石井さんはすぐ「誰か助けて」と発信した。すると、ベビーシッターや買い物を引き受けてくれたり、心配して様子を見に来てくれたりと、誰かが必ず助けてくれた。
「仕事と育児の両立は夫婦2人でも厳しいのに、シングルのいま、支えてくれる人たちがいるのは本当にありがたい」。いつか、自分にできることで恩返しをしたいと思う友人たちだ。
育児と働き方改革に生きた IT企業での教え
「困った時は抱え込まず、できるだけ早くSOSを出せ」。石井さんの暮らしを支えるこの言葉、実はIT企業時代の教訓だ。今の社内改革にも生かされている。
石井食品に入った5年前、カ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル