「二番町の老舗バー『露口』が閉店するらしい」
速報は9月下旬、松山総局長からの部内全員メールで届いた。知人からの情報という。数日前に「老夫婦が経営するいいお店があるんだけど、最近閉まっているんだよね」とうわさを聞いたばかりのバーだった。
9月に赴任したばかりの私は行ったことがなかったが、うろたえる総局長らの様子が伝染して「大ごとが起きたの?」と動揺した。とにかく取材。データベースで調べると、多くの著名人に愛されたことを伝える記事が数多く見つかった。松山の一大社交場だったらしい。
事件取材よろしく関係者の連絡先を調べて当たったが、取材は難航した。そうこうするうち、夫妻と直接面識のあった地元メディアが先んじて「バー露口、閉店」を大きな扱いで報じる。歯がみして追いかけ記事を出そうとしたら、デスクから「常連客のコメントも集めて」とさらなるハードルが課せられた。多方面に声をかけ、電話の前で頭を下げまくって、どうにか記事を仕立てた。
話を聞くうち、店の存在の大…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル