シャッターが閉まったままの商店街は、その一角にたどり着くと、雰囲気が一転する。姿を見せたのは、緑に包まれた現代的な建築だ。気鋭の建築家が改修を手がけたその建物に足を踏み入れると、そこにはアートがあふれている。
前橋市の中心街にある白井屋ホテルは、1泊5万円以上する部屋もある高級アートホテルだ。もとは、創業300年の白井屋旅館。前橋市のシンボルのような存在だったが、2008年に廃業した。
高層マンションに建て替える案もあったが、伝統の旅館は大胆によみがえる。首都圏にあるカフェが入り、ドラマのロケ地になったこともある。前橋の新しい街づくりの拠点にもなった。
このホテルを手がけたのが、大手眼鏡チェーン「JINS」創業者の田中仁さん(60)だ。ホテル経営だけではない。民間主導で、前橋市の街づくりも手がけている。
休日の昼間なのに人通りがまばらで、シャッターが閉まったままの商店街……。自治体主導の街づくりは、科学館や図書館などの複合施設を作る再開発計画が何度も浮上したが、市長交代とともに白紙となることが続いていた。
「この街は、もうダメかもしれない」
日本有数の眼鏡ブランドを育てた田中さんは10年余前、故郷・前橋の衰退ぶりに驚きを隠せなかった。
前橋市出身で、地元の信用金庫で働き、その後、前橋市で起業した。雑貨の企画販売で成功し、韓国を旅行した際に安価ですぐ受け取れる眼鏡を見て眼鏡業界に参入。いまは東京にも本社を置き、全国展開している。そんな田中さんが本格的に地元に目を向け、自ら動き出そうと思ったきっかけがあった。
衝撃受けた欧米の企業家の情熱
11年6月、モナコで開かれ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル