九州を現場にテレビでドキュメンタリーを撮り続けてきた、福岡の民放とNHKの3人が、共著で本を出した。撮影の裏話を披露し、ドキュメンタリーの可能性を論じ合う。ネット隆盛の時代の中、いかに撮るべきか。「三者三様」のスタイルから世に問いかける。
「ドキュメンタリーの現在 九州で足もとを掘る」(石風社)。出版したのは、KBC九州朝日放送(福岡市)の臼井賢一郎さん(58)、NHK福岡放送局の吉崎健(たけし)さん(57)、RKB毎日放送(福岡市)の神戸金史(かんべかねぶみ)さん(56)。
3人は、九州に軸足を置いて報道に携わる一方、放送局の垣根を越えて良質のドキュメンタリーを視聴し制作者と議論する勉強会「福岡メディア批評フォーラム」を2006年から続けてきた。コロナ禍でネットやテレビの映像を自宅でじっくり見る人が増えた今、「自分たちのこれまでの仕事を通じて、ドキュメンタリーのすばらしさを伝えたい」と本をまとめることにした。
吉崎さんは水俣病に関する番組を約30本作ってきた。
胎児性患者の半永一光(はんながかずみつ)さん(67)が、自ら撮りためた写真の展示会を開くまでを追った1991年のドキュメンタリーを作る過程では、患者や家族への偏見が残る中、番組によって平穏な日常が乱されることを心配した親族らを一軒ずつ訪ね、制作の意図を説明し、理解を求めた。幼い姪っ子と甥っ子には、世間に存在を隠されてきた半永さんが「こうして生きているんだ」と伝える番組だと必死に話すと、分かってくれたという。
作品は九州でローカル放映され好評を得た。ただ、全国枠で放映するにあたっては追加撮影を会社から求められた。さらなる取材に家族や支援者が難色を示す中で悩み、最後は半永さんに率直に相談した。
すると、少し考えた後で、追…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル