広島市立小中高校の平和教材から漫画「はだしのゲン」が削除される方針が報道された2月、全国の書店でゲンの漫画本の売り上げが通常の10倍になったことがわかった。
中央公論新社(東京)によると、削除方針が報道された2月、中公文庫版「はだしのゲン」1巻の全国書店での販売数が通常の月の約10倍になった。3月も同じ売れ行きといい、同巻の重版を決めた。電子版の売れ行きも好調という。同社の担当者は「報道を受けて、昔読んだ人がもう一度読みたいと考えたり、子どもや孫に伝えたいと思ったりして購入しているのではないか」と話す。
1975年から「ゲン」を出版する汐文(ちょうぶん)社(同)も「報道を受けて、多数のお問い合わせとご注文をいただきました」と公式ツイッターに2月に投稿。同社は図書館との取引を主とするが、一般客とみられる電子書籍の売れ行きが増えたという。「作品に直接触れ、戦争と平和について考える機会にしてほしい」と担当者は話す。
広島市教委は、市立小中高校向けの平和教育教材を23年度版に改訂。改訂前の小3の教材では、主人公のゲンたちが苦しい生活の中、家族のために浪曲を歌って日銭を稼いだり、近所の家のコイを釣ったりする場面が使われていたが、「浪曲はいまの児童にはなじまない」「コイを盗む描写は誤解を与える恐れがある」という有識者の指摘などがあり、別の被爆者の話に差し替えた。高1でも「はだしのゲン」の作者の中沢啓治さんの体験談と漫画の概要紹介のみとなった。市教委は「作品の意義を否定するものではない」とするが、撤回を求める5万筆以上の署名や、賛否双方の要請書などが市教委に提出された。(長富由希子)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル