2010年の秋だった。雨雲が垂れ込める悪天候の中、千葉県在住の男性(当時73)は、朝から「散歩」に出かけてしまった。認知症と診断されて7年、妻(当時65)は心配を募らせた。男性は地元高校の校長を勤め上げた人物。さまよって通報されることもあったが、妻は「散歩」だと考えるように努めていた。
「歩くことは、今この人が唯一自分の意思でできること。それを奪ったら、この人じゃなくなると思っていました」
妻はGPS端末を男性のバッグに忍ばせる対策を取り、戻らなければ、その度に捜しに出かけた。
その日は、宅老所「いしいさん家(ち)」(千葉県)のデイサービスを利用する予定だった。ワゴン車で迎えに行った代表の石井英寿(ひでかず)さん(48)は、男性が自宅にいないと知るや、急きょ車を街中へと走らせた。
石井さんは自分のミッション…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル