コロナ禍でリモートワークが進み、出社を招く無駄の象徴のように語られたハンコ。社会のデジタル化を進める大臣の「脱ハンコ」発言も業界に追い打ちをかけた。逆境の中で、京都の老舗印章店が売り始めたものとは――。
「元々『斜陽』なのに、どうしたらいいんやろ」
京都・四条通の繁華街にほど近い印章店「京都インバン」(京都市中京区)の7代目、高日(たかひ)結美さん(44)は日々、悩みまくっていた。今年で創業111年の老舗だが、コロナ禍で本店の売り上げは半減。京都や大阪のイオンモールに2店舗ある支店の売り上げも、モールの臨時休業でゼロになった。
「どら焼きを売ろう」と言い出したのは父で会長の松原常夫さん(72)だった。フランチャイズのどら焼き店を始めた大阪の同業者に誘われたという。
乗り乗りの父に対し、高日さんは慎重だった。「何もしなければじり貧だ。でも、どら焼き?」。飲食業は未経験。第一、そんなうまい話が、この世の中、転がっているはずなどないと思った。「あせったらあかん。お父さん、無謀すぎるで!」
高日さんは一級印章彫刻技能…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル