京都市の時計店で昨年5月に起きた強盗事件で、「闇バイト」で全国から少なくとも13人が集められ、強盗や盗品運搬、換金など役割を分担させられていたことが警視庁への取材でわかった。事件の9日後には、フィリピンから事件を指示したとして逮捕された特殊詐欺グループ幹部の今村磨人(きよと)容疑者(39)の元に金が届いていた。
警視庁への取材や実行役の公判などから、事件の流れが浮かんできた。
昨年5月2日午後3時過ぎ。京都市の時計店に中村陸哉被告(21)=強盗罪で起訴=ら2人が侵入した。ハンマーを振り上げて「さがっとれ」と店員を脅し、高級腕時計ロレックス41本(販売価格計約6900万円相当)を奪い逃走した。
41本のうち40本は、中村被告が大阪府内の高速道路のサービスエリア(SA)に運んだ。事件当日中に、報酬と引き換えに別の人物に渡すように指示されていた。
だが、中村被告はSAのトイレで何者かに襲われ、40本全てを横取りされた。「二重強盗」のような状況だが、襲った人物の行方は分かっていない。警視庁は、腕時計の場所を知っている今村容疑者の指示を受けた襲撃とみている。
この40本は、事件翌日の5月3日午前までに岐阜県内のコインロッカーへ移された可能性がある。宮沢優樹被告(22)=盗品等運搬罪などで起訴=が少なくとも24本を取り出したとみられる。
運搬役を担った宮沢被告は、腕時計を手に新幹線で東京へ向かった。途中、腕時計の写真をスマートフォンのアプリ「テレグラム」で送った。「ルフィ」と名乗る男から、事前に「腕時計の写真を送れ」とテレグラムで指示されていた。警視庁は、ルフィは今村容疑者で、写真を送らせたのはすり替えやねこばばを防ぐ目的だったとみる。
24本のうち少なくとも19本は換金役の男女6人の手に渡り、5月10日までに都内の質屋など8店で計約1351万円で売却された。6人のうち1人、深谷くるみ被告(24)=組織犯罪処罰法違反罪などで起訴=は、「SNSで時計の転売の仕事と紹介された」と供述したという。残りの腕時計21本は、売却に失敗して押収されたり、行方不明になったりしている。
宮沢被告は6人らから売却代金などを回収。5月11~13日に3回にわけ、今村容疑者名義の北海道の金融機関の口座に計約103万円を送金した。ほぼ全額が、今村容疑者が当時いたフィリピンの収容所近くのATMから、容疑者名義のカードで引き出された。
宮沢被告は、実行役へも送金した。5月9日、計約65万円を「中間的な指示役」とされる伊藤一輝被告(30)=強盗罪で起訴=に送り、伊藤被告は同日、時計店に押し入った中村被告に19万円を送金した。事件の報酬だった可能性がある。
強盗役、盗品運搬役、換金役、送金役。少なくとも13人が個別に役割を与えられ、うち伊藤被告を除く12人がSNSでの「闇バイト」に応募し、関西や九州、東京などから加わっていた。13人のうち11人が起訴された。
今村容疑者は収容所から、テレグラムで実行役に個別に指示を出していたと警視庁はみている。同庁は、各地で起きた強盗事件を、今村容疑者らフィリピン拠点の特殊詐欺グループ幹部が指示していたとみて調べる。
今村容疑者は事件で、「ルフィ」以外に「刃牙(ばき)」とも名乗っていた。いずれも人気漫画の主人公と同じ。複数の名前を使い、実行役が検挙された際に自身への捜査を遅らせる狙いだったとみている。今村容疑者は黙秘しているという。(増山祐史、遠藤美波)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル