昭和は元気だったとみんな言う。令和の今、劇場に何ができるだろう。そもそも、劇場とは? 箱か、人か、街か。吉本興業の半世紀から考える。
行列、万博より長く
箱のレジェンドなら、笑福亭仁鶴を超える芸人はいない。“三回忌”も笑いの殿堂で開く。
吉本中興の祖。
不動の人気は1970年代から。「ギャラの札束は分厚すぎて立つ」「行列は大阪万博のパビリオンより長い」などの逸話を持つ。
劇場では天井が抜けるほどの爆笑を誘い、扉は開けっ放しに。超満員なのに客をなだめすかしてさらに詰め込む過密っぷり。
昨夏、大阪市のなんばグランド花月(NGK)での追善公演はタダだった。手拭いのお土産まで付けて。
詰めかけた観客に、吉本興業HDの大崎洋前会長は「ようこそお越し下さいました。タダで。来年は有料にしたいね」。
仁鶴の現場マネジャーだった。
この夏、三回忌追善落語会をNGKで開く。有料にした。
「手拭い代を回収するつもりはございません」(弟子の笑福亭仁智(じんち))
日にちは命日の8月17日。
「おかえり、仁鶴さん」
弟子が、客が、劇場に会いに来る。
「月面」に降り立つ
仁鶴の時代から半世紀。大阪から始まった吉本の劇場は京都、東京、各地へ。抱えるタレントは約6千人に膨らみ、のしあがりたい者が後を絶たない。
6月には芸歴5年目以内の新星芸人の賞レース「UNDER5」が開かれた。
決勝進出者のお披露目会場は「月面劇場」とやら。大阪でも東京でもない。というか現実にはない。
劇場の形は、日進月歩。仁鶴さん時代から約半世紀、吉本と伴走してきた大崎前会長は6月、同社を去りました。視線の先にあるのは――。
バーチャル空間だ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル