日没の頃、大応寺(埼玉県富士見市)では、鐘楼門につるされた鐘を突く。
ボーン、ボーン。
一日の終わりを告げる音がまちに響き渡る。
しかし、その音が途絶えた時期がかつてあった。
1942(昭和17)年。金属製の鐘が取り外された。新たにつり下げられたのは、コンクリートで造られた「鐘」だった。
その「鐘」は今も本堂のそばの墓地の片隅にある。
灰色で、高さ約130センチ、直径約80センチ。いまある寺の釣り鐘と、同じくらいの大きさだ。
てっぺんのコンクリートがひび割れている。中をのぞき込むと、本物の鐘のように空洞になっていた。
側面を見ると、鐘をつく「撞木(しゅもく)」を当てる目印なのか、直径10センチほどの円形の隆起がつけられている。
「突いても鳴らないですよね……」
記者が思わずつぶやくと、僧侶の津田法和さん(40)も「鳴らないでしょうね。実際には、『鐘』を突いてもいなかったでしょうね」と話した。
鳴らないのに、なぜコンクリートの「鐘」が必要だったのか。ヒントは、今の鐘の側面に刻まれていた。
「宝暦元年鋳造の梵鐘(ぼん…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル