公立学校の教員採用試験の志願者が減り、学生が教職を敬遠するのはなぜか。その理由を学生本人に聞く調査が続いている。過酷な勤務実態を知り選ばなくなったり、教育実習の経験が影響したりする状況も浮かぶ。
実習に行き「絶対無理だと感じた」
一般財団法人「教育文化総合研究所」(東京都千代田区)所長の菊地栄治・早稲田大教授(教育社会学)が、学生へのインタビューをもとにした報告書を今年5月にまとめた。昨年10~12月、教員免許を取る予定ながら教職以外の道を選んだ国私立大の4年生21人に7大学8人の教員が聞いた。
「教師に向いてるのになと私自身も思うけど、やっぱり日本では無理」。海外の大学院に進む私立大の女性は大学教員のインタビューに対し、そう話した。「諦めさせるほど劣悪な職場環境なのは『ちょっともったいなさすぎるよ、日本』って思うのが悔しい」
教職断念のきっかけで目立つのは教育実習だ。金融機関に就職する国立大の男性は「1週間で体が動かず、絶対に自分には無理だと感じた」。
専門家が抱く危機感
21人のうち17人は「条件が整ったら教職に就いてみたい」と答えた。その「条件」として、国立大の男性は少人数学級の実現を挙げ、「(学級規模が)今の半分ぐらいじゃないと子どもを見られない」と述べた。
菊地教授は言う。「教職は子どもと向き合い未来の社会をつむぐ仕事。教職を取り巻く環境を抜本的に改善しないと危機は深刻化するだろう」
岐阜県教育委員会は今年3月、県内7大学の、教育学部に在籍しているか、教職課程を履修した4年生724人を対象に調査を実施した。回答率は37・7%だった。
うち学校教員にならない進路を選んだ学生に理由を複数回答可で尋ねたところ、77人が回答。「他にやりたい仕事が見つかった」が88%と最多。「休日出勤や長時間労働のイメージがある」が79%、「職務に対して待遇(給与等)が十分でない」が64%だった。
このほか、「教員としての適性がないと感じた」(55%)▽「授業ができるか不安だ」(53%)▽「いじめや問題行動への対応ができるか不安だ」(49%)▽「教育実習が大変だった」(48%)▽「保護者とのコミュニケーションが取れるか不安だ」(47%)との回答も目立った。
学生の声を聞いてみると……
教育社会学を専門とする佛教大の原清治教授、京都文教大の浅田瞳准教授、神戸松蔭女子学院大の長谷川誠准教授のグループ(代表・原教授)が調べたのは、「学校を取り巻く状況が厳しいと言われる理由について、学生はどう考えているか」と、「教育実習後の志望度の変化」だ。関西圏の私立4大学の2~3年生268人を対象に今年1~4月に調査を実施し、9月末の日本教師教育学会で発表した。
教職が厳しい職と言われる理由としては、4大学のうち3大学で「労働時間が長い」「残業代が出ない、給料が安い」「部活動指導」が上位を占めた。
他方、教育学部があり、教職への進路が既定路線の1大学だけは「勤務が過酷だというのは社会が構築した偏見」が1位で35%だった。「ボランティアやインターンシップを経験する学生が多いため、『学校は言われるほどしんどくない』と感じていたり、教職を目指す強い意志を持っていたりすることが考えられる」と研究グループは分析する。
原教授は「学校が厳しいという見方は、教員養成を目的とした大学の学生には、それほど大きな影響を与えていない可能性があり、精緻(せいち)な分析が必要だ」と指摘する。
また、教育実習前後の志望度の変化を分析した結果、実習後に数値が落ちた学生の自由記述には、「大変さを知り、教師の仕事が良いとは思わなかった」「保護者対応が多く、やりたいことに対する時間が減ってしまう」「本当に仕事にしばられない時間がほしい」などの声もあった。
研究グループは「実習先の担当教員から学校現場の厳しさなどを見聞きする機会が多くなり、結果として教職回避の要因になっている可能性も否定できない」と分析している。(編集委員・氏岡真弓)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル