「何人殺した?」
殺人未遂の疑いで逮捕された「マフィアの顧問」の男に対し、捜査員が問う。
男が口を開く前に、隣に座った弁護士の女性が割って入る。「証拠もなく連行したのは違法です」――。
韓国ドラマのヒット作「ヴィンチェンツォ」(2021年、スタジオドラゴン制作)の一場面だ。
エンタメで世界に打って出る韓国のドラマでは、取り調べに弁護士が立ち会うシーンが描かれることが珍しくない。
「もはや当然の手続きとして定着しているということ」。韓国の刑事訴訟法に詳しい安部祥太・関西学院大准教授は話す。
日本の法律がベースになったとされる韓国で、なぜそうなったのか。安部准教授に聞いた。
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――日本と韓国は法制度が近いと聞きます
1910年の日韓併合で日本が韓国を植民地化し、日本がフランスやドイツから採り入れた刑事訴訟法が韓国にも適用されました。
そして終戦後の韓国は米国の軍政下に入り、日本とほぼ同じ現行の英米法に変わった。だから条文も、仏独法と英米法のミックスという経緯も、とても似ています。
「おいこれ署名するか」「すんのかせんのか、こらぁ」。取調室に響く警察官の怒声。記事の末尾では、違法とされた日本の警察の取り調べの音声動画を紹介します。
日本にならった国で進んだ運用 きっかけは
――日本と制度的に近い韓国では、なぜ弁護士立ち会いの話が進んだのでしょうか
まず民主化の過程を理解する必要があります。韓国では軍事政権が倒れて民主化する87年まで、刑事司法が乱用されていました。
日本の最高裁にあたる大法院で死刑判決が出てから18時間後に執行され、「司法殺人」と言われる事件もありました。
そういう歴史があるから、刑事司法を正そうという大きなモチベーションがありました。そして、民主化以前の法制度は日本にならったものでした。これを改めるということは、韓国独自の法制度を整えることを意味します。日本からも脱却し、民主化を真に達成することになる。だから韓国の人たちにとって、司法改革に重要な価値があり、それはいまも進行中のことなんです。
――民主化の流れのなかで、国民や政治が動いたということでしょうか
直接のきっかけは、実は違い…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル