暗くなった海沿いの街に、明かりが一つだけともっていた。
能登半島北東部の石川県能登町にある、港に面したガソリンスタンド「エネオス宇出津港SS」で、町の浄水場の男性職員が携行缶を手に頭を下げていた。
「ここが生命線。ありがとうございます」
ガソリンは、停電になっている浄水場の発電機に使う。車に積み込むと、急ぐように戻っていった。
店には、「一般の方の給油は終了しました」とペンで書いた段ボールの切れ端が掲げられていた。
強い地震に襲われてから丸一日が過ぎた2日午後6時半ごろ。「ガソリン入荷のめどが立たない」と、専務の上野貴喜さん(40)はこの日の正午ごろ、給油は緊急車両や自治体に限ることにした。
一般車両がやってくると、胸元でバツ印をつくり、「ごめんなさい」と声をかける。車の運転手の中には「どこならあいていますかね」と必死に尋ねる人もいた。
現場は金沢市中心部から約120キロ。レンタカーで入った記者(29)は、普段なら2時間程度の道のりを約5時間かけて町沿岸部の宇出津地区にたどりついた。
能登半島に近づくにつれ、路面には亀裂が走り、土砂がふさぐ道に何度も突き当たった。
上野さんは「食料品は届いておらず、備蓄していたカップ麺やお菓子でしのいでいる。ガソリンもだが、いま町にあるものに頼るしかなく、心細い」。
ガソリンの最後の入荷は大みそか。通常は週に2回入れているが、次がいつになるかはわからない。4日正午には、レギュラーは容量1万リットルの4分の1足らずになった。給油できる限界に近づいているという。
一帯は、家屋が倒壊し、津波も押し寄せた。店は浸水し、上野さんの自宅も電化製品や家具が倒れ、高台の中学校駐車場で車中泊を続けながら、給油の要請があれば店に駆けつける状況だ。3日も消防車などが給油に来た。
「早くガソリンが届けば」と上野さん。「大きな被害が出た町にこのまま住み続けられるのか想像がつかない」と話す。(三井新)
石川県は、災害時には救急車やトラックなどに燃料を優先的に供給する協定を県石油販売協同組合と結んでいる。ただ、市民生活レベルでは既にガソリンは足りなくなっており、国は供給のためのタンクローリーが手配ができないか調整を始めるなど供給方法を模索している。
県によると、3日時点で県が物資輸送のために確保したトラックは6台。比較的被害の少なかった金沢市を出発して物資を運ぶことから、目立った実害は出ていないとみられるが、寸断された県北部への道路が復旧すると、稼働台数の増加が見込まれるため、緊急車両でも必要な燃料が確保できるかは不透明だ。
市民レベルではより入手が難しく、少ないガソリンを求めてガソリンスタンド前に車の列ができることが常態化。車中泊で寒さをしのぐ被災者もおり、ガソリンの供給が途絶えれば命にかかわる可能性もある。
県の担当者は「ガソリン不足の現状は、食料不足と同じくらいの危機感がある。なるべく早く供給が復活するよう努めたい」と話した。(華野優気)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル