作家・乙武洋匡さんの大ベストセラー『五体不満足』が発売されたのは1998年だった。
あれから21年。平成が終わり、令和の時代を迎えた。来年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。
はたして、障害者をめぐる私たちの理解や意識はどう変わったのだろう?
時代の変化とともに、多様性に対する理解は本当に進んだのか。
障害の有無に関わらず、私たちはどうしたらもっと生きやすくなるのだろう?
「障害者に対する声はかなり批判的になっている」と語る乙武さんと、『ママは身長100cm』を上梓したコラム二スト・伊是名夏子さんとの対談が実現した。
世間の風当たりは、より強くなっている
――乙武さんの『五体不満足』が発売されてから21年が経ちました。先日、発売されたばかりの伊是名さんの初著書『ママは身長100cm』も話題になっていますが、社会の障害者に対する理解や意識に変化は感じますか?
乙武:残念ながら、障害者は誰かの支えなくしては生きていけない、という現実に対する世間の風当たりは、より強くなっているように感じます。
特にここ数年の、「自己責任論」を強調するような風潮を考えると、伊是名さんの本に対しても冷ややかな声が多いのではないかと心配になります。私もさんざん言われましたが、「車椅子に乗って自分のこともできない人間が、結婚して子どもを持つなんて」と……。
伊是名:おっしゃる通りです。私の子育てを取材していただいたハフポストの記事が、Yahoo!のアクセスランキング1位になった時は、批判コメントが一夜にして400件以上も投稿されて。ヘルパーさんの髪型やピアスまで批判されました。
乙武:私が『五体不満足』を出した時は、「2ちゃんねる」はあったのですが、そこまで一般の方からのコメントはなかったんですよね。
SNSの普及によってそうした声が可視化されただけなのか、それとも世の中の風潮が変わってきたのかわかりませんが、障害者に対する声はかなり批判的になっていると感じています。
伊是名:本当にそうだと思います。私も、批判コメントで叩かれまくった時は、心が折れそうでした。
――社会がそうなってしまった原因は何だと思われますか?
乙武:1つは、経済格差の広がりによる社会問題が大きいと思います。
ここ数年、ブラック企業の問題が深刻化しているように、働けども働けども給料が増えず、心身ともに疲弊するだけの余裕のない毎日を生きていると、ストレスをどこかにぶつけないとやっていられないのだと思います。そのはけ口が、障害者をはじめとした弱者に向けられている。ユダヤ人排斥に向かった第二次世界大戦前のドイツがまさにそうでしたよね。
伊是名:ストレスを誰かにぶつけている人たちも、社会の弱者なんですよね。
でも今は、生き方や働き方が同じ方向や目的の人だけではなくなっているから、弱者も多様化している。弱者の側面を持つ人も増えてきてきます。そうすると、弱者にいる自分に気づいた時、それを認められずに苦しくなっているのかもしれません。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース